Bパート 前

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 てっきり何かに取り憑かれたように島を愛して残った格好いい女の子と思っていたのに、そうは思えない。そして、自ら死を願うもその心と行動は釣り合っていない。死への一歩となる一押しを他人に求めてどうなる。俺はわざわざそんなことをするために都会を離れ、島に来た訳じゃない。  しかし、薫は躊躇することなく彼女の背中を押した――。  手に取ってわかる肉付きのない細い体は、簡単に海面の上に放り出された。その子は、うわっと一言驚いていた。一息はできる間が空いて、バシャンと海に落ちた。  女の子は無駄に手足を動かすことなく海中に沈んでいく。足につながれたロープとともに……。  彼女の沈む所から白い気泡が上がって、海面に出てくるとパチパチ割れていく。海中からさら白いものが見えた。それは沈んでいくはずの女の子が浮かび上がってきたのだ。  女の子は呆気にとられた表情で薫を見ていた。  薫は笑った。 「ごめんね! 自殺の手助けなんて勘弁してくれよっと!」  そう言って薫は、ロープでつながれていたはずのコンクリートブロックの一つを持ち上げてみせた。
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