Bパート 前

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「るみでいいわよ、薫君!」  軽い口調で言うと、るみは坂を下り始めた。薫は彼女の後を追う。 「では、改めて。るみはどうしてこの島に一人で残ったの?」 「簡単な話よ。私はここが好きだからよ。生まれも育ちもここ」 「それは、離れていった島民皆そうじゃないの? 家族だって出て行く方がつらかったでしょう」  薫は問うた。 「それはどうかな。一斉離島が決まった時、皆喜んでいたから。つらいも何もなかったと思う。私は離島するの嫌だって言ったけど、両親は私を何度も説得したわ」 「みんな、この島が嫌いだったから? 単純に住みにくいからとか?」 「後者の理由もゼロではないけど、本当にこの島が嫌いなのよ。こっち」  二人は先の船着場まで戻って来た。  るみは、島を周回する道を案内した。  薫は坂道を下っただけで汗だくになっていた。高い気温とアスファルトの照り返しが薫を襲っていた。るみは慣れているのか、さほど汗はかいていなかった。  時々、潮の香りを運んでくる風が体を冷やしてくれる。 「島民全員がこの島を嫌いなる理由って?」
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