Bパート 前

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「トマトときゅうりだけじゃ、満足した食事にはならないんじゃ」  細身のるみを見て薫は言った。 「そうよ。毎日、数が取れる訳でもないし。水まきもほとんど天候まかせ。こんな島でも、今までいかに贅沢な生活をしていたのか痛感した。結局、週一回本土にいる家族から水や食料の仕送りに頼ってる。この島に残っても何も成せていない。私は無力。それでもこのトマトやきゅうりは育っていて羨ましいって思う。植物にこんな気持ちを向けるのって変でしょ」  るみは冗談ぽく言って笑ってみせた。 「いいと思うよ。むしろ、俺はそういう方がいい」 「……」  るみは薫の返答に呆気にとられた。 「意外。そんな人には見えないけど。こんな島に一人で来たくらいだから、中身は変わり者なのかしら」  薫はるみに返す言葉はなく、苦笑いをした。 「寄り道しちゃったわね。戻りましょう」
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