Bパート 後

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 また登るのか、と薫はため息をついた。  海水を浴びた木クズの異臭を嗅ぐよりは良いか。  るみの後を遅れないように追っていく。  林道を登っていくうちに、あの異臭はしなくなった。山の中まで風に乗ってこないようだ。呼吸をするたびに空気がおいしいと思えるほどだ。  頂上に着くまで二人の間に会話はいっさいなかった。林道を歩く足音と風で揺れる葉の音。遠くに波の音。それらが薫の荒い呼吸の音と入り交じる。  頂上には十分ほどで到着した。そこには鳥居があり、その先に百葉箱サイズの神社があるだけだった。  先に着いていたるみは、やっぱり都会っ子ねと言わんばかりの表情で薫を待っていた。 「はい、お疲れさん!」  でも、るみの言葉に嫌みはなかった。薫は息を切らしながら、持っていた水をがぶ飲みした。  るみは薫の呼吸が落ち着くまで待っていた。薫は上がった息を整えると、海を見ているるみの隣に並んだ。 「ここからの眺めはいいね。海が輝いて見えるね」  薫は言った。 「夕方になると黄金に輝く海に見えるよ」 「るみはずっとこの景色を見ていたんだね」 「そう。それにこの木」
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