プロローグ

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プロローグ

「おはよう!」  朝、そう言ってスライド式のドアを開けて病室に入ってきたのは、看護師の四季野牡丹。まだ若い。薄ピンクのナース服で、朝食をトレーに乗せて運んできた。  病室はベッドが四つあり、使われているベッドは窓際の一つだけ。少年が一人ベッドの上で窓から差し込む光りを浴びていた。病室のカーテンは少年の所だけ開いていた。 「薫君。今日はもう起きてたんだ。はい、朝ご飯」 「おはようございます。牡丹さん。今日はなんか目が覚めてしまって……。本当は牡丹さんに起こしてもらえるのが一番なんですけど。今日は……」  薫は、ふっと布団に目を落とす。少し残念な表情をしているのかなと、牡丹は薫の表情を見た。照れたように口角が上がったやわらかい笑顔だった。こんな表情はいつも見せないのにと、牡丹は頭の中の記憶を思い返した。彼の担当になって一ヶ月半。初めて見た表情だった。 「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。私、ドアの所からもう一度入り直そうか。寝直す?」 「今日は、もう大丈夫です」 「そう」  薫の返答を聞いて、牡丹は笑顔になった。
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