の、ような

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の、ような

 駅近くの本屋でレジを担当していると、美しい女性が前に立った。すらりとした身体、白い顔、ぱっちりとした黒く大きな目。何もかもが美しかった。  赤い服がよく似合っている。風に合わせて赤い布地が揺れるのを見て、わたしは彼女を一輪の薔薇のようだと思った。すると次の瞬間、彼女は煙とともに消え、赤い薔薇の花がぼたりと目の前に落ちた。誰もいなくなった空間とその先にある茶色い壁を呆然と見つめた。 「店長、今、女の人が」  通りかかった店長を呼び止めると、店長はイライラとした調子で。 「今、忙しいから」  まるで相手にされないので、赤い薔薇をそっとポケットにしまった。今起こったことをもう一度整理しようとしたとき、目の前にまた人が立った。  とてつもなく太った中年男だった。顔はしかめ面で、脂ぎった鼻の穴が二つ、目よりも大きかった。ブタのようだと思った。すると目の前の男が煙に包まれ、あっという間にブタになってしまった。ぶぅぶぅと鼻を鳴らし、きょときょとあたりを不思議そうに見回した。突然ブタが現れたので、店内はずいぶんざわめいた。説明することも騒ぎになることも何か面倒くさくなってきたので黙ってブタを抱えてレジを出ると、裏口から逃がしてやった。  どうやらわたしは、人を、連想したものに変えてしまう能力を手に入れたらしい。だから次にカウンターに来た客に対して「人間みたいな」と思うことにした。「人間」みたいな、と思えば人間の姿のまま店から返すことができるだろうと思ったからだ。レジに戻り、しばらくして野球帽子をかぶった少年が目の前に立った。人間みたいな口をしていて、人間みたいな目をしていて、人間みたいな手で本を差し出してきて……。  こう思い続けているとなんだか少年が人間ではない違う何かのようだと思ってしまった時にはもう遅く、煙とともに少年は人間ではない違う何かになってしまった。
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