詩「雨の降る景色」

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雨の夕暮れに 耳を済ませると 長い間甘え続けてきた 内臓の声が聞こえてくる気がして だからわたしは電話を掛ける 女神のような翻訳家に わたしの内臓の声を聞いてもらうために ガラスの上に肘をついて 細く手短に息を吐く 目の前にある観葉植物の葉が揺れて アコギとアコーディオンが揺れて 部屋の中にあるものすべてが揺れて もしもわたしがもう一度 あなたに会っていたとしたら それでも後悔はなかったのかなんて どうして分かることができようか 明日の声もまた揺れて 内臓の声は届かない わたしには聞こえない 雨の音しか聞こえない 別れの言葉を噛み締めているときは いつだって外で雨が降っている コンクリートに その内側に 染み込んでいく細い糸の 何色だったのかはもう覚えていない 透明な糸 いつの間にか という無愛想な言葉に かける言葉も見つからず ただ明日も外では雨が降っている 誰かの外では雨が降っている わたしはその誰かの外で 雨に濡れている ポッカリと空いた 穴のようなカレンダーに 白い絵具を塗るように 雨に濡れていく 明日が濡れていく あなたに溺れていく
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