第一幕 二話

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「そんな…じゃあ、一体どうしたら…」 「お兄さんの持っている邪気を、取り払う。それしかないよ。そのためには、その壺を完全に破壊するしかない」 「壺を、破壊する…?」 「でも、お兄さんには上手くできないだろうから、私たちで預かって壊した方が良いよね、佳苗ちゃん。適当にやると、危ないから」 もはや舞台の観客となっていた私に話が回される。 「そ、そうだね。私たちなら専門の人に頼めるからね」 「だからさ、お兄さん、その壺、いつでも良いから、ここに持ってきてね」 「…それは良いですけど…そんなことしたら、罰が当たるっていうか、なんというか…」 怪訝そうな表情を浮かべる古川に、 「霊的なものはね、その場の色んな力が関わり合ってるの。だからね、お兄さんが壺を壊したせいでそこの釣り合いが取れなくなって、美術館に子供の魂が働くようになったの。だから、その子をもとに返してあげるには、その壺を壊して、バランスを取る必要があるの」 「は、はぁ…で、僕はどうすれば…?」 「お兄さんはここへ壺を持って来て、そのままそこで警備員さんを続ければいいと思うよ。すぐに逃げたりすると、その子供に怪しがられて付いてきちゃうかもしれないから、平気な顔で警備をしてれば、何にも問題ないよ」 ハキハキとした夢奈の口調には、有無を言わさぬ雰囲気があった。 「じゃあ、僕は助かるんですね…?」 「うん。大丈夫」 「何だか、すごく安心しました。ありがとうございます。壺、持ってきますね」 古川の表情から、ようやく緊張が解けたのだった。 「そういえば、ビルの前にいた男の人は、ここの人ですか?」 「ビルの前?ここにはそんな人はいないよ?」 「いや。僕がビルに入るときに、嫌にジロジロと見られたもので…まあ良いんです。ともかく、今日はありがとうございました」 古川は満足そうに、相談所を後にした。
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