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「そんな…じゃあ、一体どうしたら…」
「お兄さんの持っている邪気を、取り払う。それしかないよ。そのためには、その壺を完全に破壊するしかない」
「壺を、破壊する…?」
「でも、お兄さんには上手くできないだろうから、私たちで預かって壊した方が良いよね、佳苗ちゃん。適当にやると、危ないから」
もはや舞台の観客となっていた私に話が回される。
「そ、そうだね。私たちなら専門の人に頼めるからね」
「だからさ、お兄さん、その壺、いつでも良いから、ここに持ってきてね」
「…それは良いですけど…そんなことしたら、罰が当たるっていうか、なんというか…」
怪訝そうな表情を浮かべる古川に、
「霊的なものはね、その場の色んな力が関わり合ってるの。だからね、お兄さんが壺を壊したせいでそこの釣り合いが取れなくなって、美術館に子供の魂が働くようになったの。だから、その子をもとに返してあげるには、その壺を壊して、バランスを取る必要があるの」
「は、はぁ…で、僕はどうすれば…?」
「お兄さんはここへ壺を持って来て、そのままそこで警備員さんを続ければいいと思うよ。すぐに逃げたりすると、その子供に怪しがられて付いてきちゃうかもしれないから、平気な顔で警備をしてれば、何にも問題ないよ」
ハキハキとした夢奈の口調には、有無を言わさぬ雰囲気があった。
「じゃあ、僕は助かるんですね…?」
「うん。大丈夫」
「何だか、すごく安心しました。ありがとうございます。壺、持ってきますね」
古川の表情から、ようやく緊張が解けたのだった。
「そういえば、ビルの前にいた男の人は、ここの人ですか?」
「ビルの前?ここにはそんな人はいないよ?」
「いや。僕がビルに入るときに、嫌にジロジロと見られたもので…まあ良いんです。ともかく、今日はありがとうございました」
古川は満足そうに、相談所を後にした。
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