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第一幕 三話
「またまた一件落着、だね。古川さん、結構最初は疑ってたのに、夢ちゃんの話聞いてガラッと変わったね。やっぱり、すごい説得力があるんだよ、夢ちゃんはさ」
私が褒めると、
「別に、すごくなんかないよ。全部本に書いてあることだし」
妙なところでツンデレを発動する夢奈は、褒めるとぷいっと顔を背けてしまうのだった。
「夢ちゃんたら、いつもそれ言う。十分すごいんだから、そんな謙遜しなくて良いんだよ」
可愛くなった私が更に攻撃していると、
「ねえ、佳苗ちゃんこそ、書けてるの?小説」
と、強烈なカウンターを食らってしまう。
「…上手く文章がまとまんなくって…」
私は口ごもってしまう。
これだけ相談者が現れて、怪談は既にひとつの短編集が作れるのではないか、という程度には集まっている。しかし、集まったはいいものの、それを上手く文章化するのに、難航してしまっていた。ホラー独特の空気感や、行間のこなし方が全く扱えず、納得いくように構成できないのだ。
この前も、時間をかけて文字起こしした怪談を、夢奈にこっぴどく修正を入れられてしまった。夢奈はホラー小説を愛するあまりに、内容だけでなく、文体を使った怖さの演出まで習得していたのだった。
もはや、私抜きで夢奈がひとりで相談受けも文章化もしたらいいのではないか、とさえも思った。しかし、そんなことを本人に言うと、佳苗ちゃんだけが頼りなの、などと言われるのだから、私も頑張らないではいられない。可愛い娘のような夢奈の助手として、私は彼女を全力でサポートすることが使命なのだ、と私は考えていた。
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