第一幕 三話

3/8
前へ
/84ページ
次へ
今日は遠いところからお越しくださり、ありがとうございます。 早速なんですが… ここは、見ての通り古い家で、築100年は経っているんです。 古い家ではありますが、案外住み心地は良いものなんです。この辺りは静かだし。ややこしいことに関わる必要も全くないですしね。主人が5年前に亡くなって、私ひとりでここにいるんですけど、そんなに寂しくはないんですよ。 ここの家、広く感じましたか?私ひとりには持て余すくらいなんじゃないか、って思いますよね。 ただ、一部屋だけ、全く使っていない部屋があって。使っていないというよりも、開かないんです。あの部屋。鍵が掛かっているという訳でもないのに、普通の座敷の襖なのに、開かないんです。 住み始めた時からそうだったんですが、窓から中を見ようとしても、その部屋にだけ窓がないんですよね。けれど、まさか襖を突き破る訳にはいかないし、どうせそんなに部屋はたくさん使わないということで、放置していたんです。 少し不思議でしたけど、ここ30年は何もなかったので、部屋の存在自体を忘れていたぐらいだったんです。 ところが、三か月くらい前から、あの部屋から変な音が聞こえ始めたんです。 夜中に目が覚めて、トイレに行こうとあの部屋の前を横切った時に、カサカサという音が聞こえて。私、その音を聞いて、咄嗟に、布団を敷くような音だな、と思ったんです。けれど、まさかそんな筈はないって、寝ぼけていたのだと思うことにしたんです。 ただ、その三日後ぐらいに、今度は障子を開けるような音が中から聞こえて。障子なんてないはずなのに、ガラガラガラって。もう私怖くて、慌てて逃げ出してしまったんです。 その部屋の前を通るのが怖くなって。でも、その部屋の先にはトイレがあるから、どうしてもそこを通るしかないんですよね。だから、トイレに行く時は極力走って聞こえないようにしてたんです。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加