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序幕
陽が完全に沈み、街灯が街の灯りを支配する時分。
影に覆われたビルの窓をひとつの街灯があかあかと照らす。
照らされた窓の内では、ある女性が浮かない顔をしていた。
「あの…ここが怪談相談所、ですか…?」
40は過ぎていると見えるその女性の表情は、まさに物憂げといった感じだった。
「正解。おばさん、ひょっとして幽霊見ちゃった?」
そう言ったのは、小学生の少女、夢奈。
「こら、夢ちゃん。そういうこと言わないの」
それを窘めるのは、ネットで細々と投稿しているだけの、三流小説家の私。
「佳苗ちゃんは私の助手なんだよ」
勝手に私の紹介をする小学生の夢奈に、女性は少し戸惑いながらも、ひと先ずは事務所のソファに腰かけたのだった。
「年齢的に、誤解があるから…ほら、そういう言い方は、さ。せめて、一緒にやってるとか言わないと…」
私が抗議するが、夢奈はまるで聞いていない。
「今日はお越し頂きありがとうございます。本題に入る前に、なのですが。本相談所の決まりとして、基本的には体験を聞かせて頂き、状況によれば、私たちがアドバイスをしたり、実際に現地に赴かせて頂く場合もございます。そうしした経緯も含めて、私が小説として記録させて頂く、という形になります」
私が丁寧に説明をする。
「ここは、お祓いとかは出来るんですか…?」
「まあ場合によっては、そういう人を紹介するけど、全部が全部お祓いだけしてりゃ良いってものでもないしね」
「その子の言う通り、本相談所では、基本的に体験談を”聞く”という形になるので、お祓いのようなことが出来る者はいないんです。ただ、事情によっては夢ちゃんや私が現地に赴かせて頂く場合もあります」
「はぁ…まあ、良いです。私の話、聞いて貰えますか?」
女性はあまりピンときていないようだった。
「もちろんです」
私がそう言うと、女性はゆっくりと語りを始めたのだった。
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