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「なるほど…」
私と夢奈は顔を見合わせた。
「佳苗ちゃん、あれ」
夢奈が手を差し出した。
「今食べるの?こんなタイミングで?」
私が訊いても、夢奈はいいからいいから、と言って”あれ”を要求した。
「さんきゅ、佳苗ちゃん」
私が差し出した”あれ”とは、夢奈が大好きな『ペロちゃんキャンディ』だった。棒に渦巻き型の飴が施された甘い味がするキャンディが、夢奈は大好物なのだ。
「じゃあおばさん、ちょっと聞いていい?」
キャンディを舐めながら訊ねる夢奈に、篠田と名乗る女性はゆっくりと頷いた。
「おばさんの部屋の上には、本当に上の部屋はないの?」
「はい…外から確認したら、五階だけ一部屋少ない構造になっていて…」
「ねえねえ、それって、過去に上の階があったけど、取り壊されたとかってことはないの?」
「うーん…そんな話は聞いたことないです…」
篠田は考え込むような表情になった。
「佳苗ちゃん、多分これは昔に512号室はあったんだと思うよ。そしてその上の部屋で、絶対に何かが起こってたんだ。でも、それがなんで部屋ごとなくなったか、分かる?」
「ええ…?」
戸惑う篠田。
「おばさんが聞いたっていう、床が抜けるような音だよ。それは多分、床が抜ける音なんかじゃないと思うよ。部屋を”取り壊した”時の音なんじゃないかな。言われると、そんな気がしてこない?」
夢奈の言葉を聞いた篠田は表情を変えた。
「言われてみると…」
「でしょ?おそらく、その部屋では過去にヤバい事があったんだろうね。叩きつける音、それがリアルに何かを殴ったり、叩いたりする音だったら?走り回る音が、逃げ回る音だとしたら?何となく想像できない?」
沈黙が流れた。篠田は徐々に顔色を悪くする。
夢奈の推測が正しいのならば、それは紛れもなく虐待紛いの行為が行われていたことになるのだろう。怪談の根源は、常に積み重なった悪意や恨みであることが多い。
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