第三幕 一話

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「あれは、逆効果だったということですか?」 「もちろん、怪異に対する対処法に、正解なんてないのかもしれません。そもそも”怪異”という事象そのものが、曖昧なんですから。ですが、夢奈はなぜか、自分の理論と矛盾するようなアドバイスを提起した。これは、不自然にも程がありますよね」 「確かに…でもそうなると、意図的に僕を怪異に陥らせようとしたことにならないですか…?本来なら逃げるべきところを留まれと言ったり、自分の理論と真逆のことを主張して、怪異を強めようとしたり…」 唸るように古川が言った。 「そう、問題はそこですよ。夢奈が単なる、的外れな推理ばかり披露するだけの恥さらしな探偵擬きならまだ良いですよ。しかし、彼女は”意図的に”真逆のことばかり言っているんだから、更に質が悪いんです」 「ちょっと待ってください。僕はあの子と何の接点もないんですよ?何故、わざわざそんなことを?」 「目的は、正直まだ分かりません。夢奈は一体何を目論んでいるのか、何がしたいのか、それは分かりません。けれど、それが真っ当な理由である可能性は極めて低いですよ」 稲葉は力を込めてそう言った。 「そう、ですか…では、これから、僕はどうすれば良いんでしょうか…」 不安を顔に出しながら、古川は言った。 「壺は、結局どうされましたか?」 「流石に僕の中でも、完全にあれを壊してしまう、というのには抵抗があって…実はまだ相談所に持って行ってなかったんです」 「それは懸命ですね。まあ、正直、僕は素人ですから、具体的にどんな対策をすれば良いか、なんてのは判断し兼ねますが、夢奈のアドバイスの”逆”を行くのが、妥当な気がします」 「壺を元に戻す、みたいな?」 ええ、と稲葉が返事をすると、古川の表情は僅かに明るくなった。 「それじゃあ、僕はそろそろ。今日は貴重な話、ありがとうございました」 と稲葉が頭を下げると、 「いえいえ、こちらこそ。ところで、稲葉さんは何者なんですか?相談所をどうして詳しく調べているんですか?もしかして、過去に稲葉さんも、あの相談所で酷い目に遭ってしまったとか?」 矢継ぎ早に古川に質問され、稲葉は少し言葉に詰まる。 「例の恥さらしな探偵、ってところですかね」 稲葉は頬を緩めながら、喫茶店を後にした。
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