第二幕 二話

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とはいえ、相談所の前で聞き込みをしていた頃から稲葉が集めていたピースは、徐々に揃い始めていた。 ちょうど一年前、とあることからこの相談所の存在を知り、稲葉は長い間、ビルの前で張り込みをしていた。最初こそ客は少なかったものの、相談所は一部の人たちの間で不思議な少女がいると話題になり、客も多く訪れるようになっていった。 『人々の怖い体験談を聞き、それを聞いた少女が怪異を解決してくれる相談所』。一見すると善良な活動だ。しかし、稲葉は調査するにあたって、どうもその実態は怪しいことが分かってきたのだった。 相談所から出た大抵の客は満足そうに帰ってゆく。だが、稲葉がツテを頼りに客の足取りを追うと、多くの場合、死亡や失踪が確認されていた。 つまり、彼らは夢奈から”有益な”アドバイスを授かった筈なのに、結局はそれを回避できなかった、寧ろ、最悪の結果を招いていることになる。 古川は辛うじて生きていたが、面会の連絡を取れる場合はかなり稀だ。 この前も、相談所に来ていた篠田という女性に連絡を試みたが、消息不明となっていた。篠田は相談所に『上に部屋がないのに、物音が聞こえてくる』と話していたことまでは掴めたが、一体そこで夢奈が何を言ったのかは分かっていない。だが、篠田はその数週間後に、”部屋ごと”姿を消している。彼女が暮らしていた部屋そのものが、消滅してしまったのだという。 他にも、丑の刻参りの呪いを恐れた小暮という女性が、相談所を訪れた三日後から会社を無断欠席し、失踪を遂げていたことも判明している。 これらの事実は、やはり相談所と因果関係があるように思える。 一体、夢奈は客にどのような指示を仰いでいるのか。訪問客との面会が困難であることから、その情報を得るのはほぼ不可能に近い。そこで稲葉は遂に自分の足で相談所に乗り込み、弟子としての潜入を決行したのだった。
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