第一幕 一話

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「今日も凄かったじゃない、夢ちゃん。まるで探偵さんみたいだった」 そう私が絶賛すると、夢奈は照れ臭そうに頭を掻いた。推理は大人顔負けだが、まだまだあどけない夢奈は可愛くて仕方がなかった。 「あんなの、ホラー小説読んでたら誰でも分かるってば」 夢奈はいつもそう謙遜するが、本を読んだだけであんな推理ショーが出来るのだから、本当にこの子はすごい子なのだな、と思った。 怪談相談所などと銘打ったこの相談所も、ほとんどは夢奈の推理で成り立っているようなものだった。私は本当に凄いものを相手にしているのかもしれない。そう思ったことは一度や二度ではなかった。 始まりは、一年前の夢奈の言葉だった。私はネットで小説を細々と投稿しているのだが、全く閲覧数もつかない、まさに一銭の得にもならない趣味だった。ファンタジーを書いても、本格的なミステリーを書いてもダメ。 そんな時に出会ったのが夢奈だった。血の繋がりはなかったが、彼女は色々あって昔からよく遊んで懐いていた私のところへ転がり込んだのだ。私は子供は嫌いではなかったし、何より夢奈は一緒にいて何だか楽しかった。 そんな彼女が好きなのが、ホラーだったのだ。彼女は私が小説を書いているんだという話をすると、半ば強制的にホラーを書かされた。しかし、私が苦心して書いたホラーは納得してもらえず、作り物ではなく本物を集めようという流れになったのだった。 「佳苗ちゃんはセンスないね、とても来年でアラサーになる人の文章とは思えない」 辛辣な一言だったが、それは紛れもない事実だった。 夢奈のホラーに対する知識や熱量は圧倒的なものがあり、体験を話してくれた人の重荷を下ろすような的確なアドバイスをいつもする。この怪談相談所は、それをウリにしていると言っても過言ではない。ただ怪談を聞くのではなく、小さな女の子が対策まで教えてくれる相談所。相談所は寂れたビルの一室だが、客足が途絶えることは少なかった。 相談所を始めてからの夢奈は何だか楽しそうだし、私自身もこの仕事は凄く楽しめているのではないかと思っている。
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