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2 ホームルームは踊る
翌日、ロングホームルームの時間、僕は合唱コンクールについての提案をした。
「今度の合唱コンクールについて、アイデアを提案します」
僕は、手を挙げて司会の佐久間学級委員長に言った。
「合唱コンクール? ああ来月1、2、3年の全クラスで行う行事ですよね。それの何を提案するんですか」
「あの、前に行って話していいですか?」
「ああ、構いませんよ。どうぞ 」
僕は教卓の所へ行った。クラスの生徒はほとんど僕の話を聞く雰囲気ではない。後ろを向いてしゃべったり、居眠りしたり、何かノートを開いて書いている奴など、僕を注目している生徒は……2人いた。
一人は、中島緑だった。彼女は、肘をついた両手を鼻の前で組んで、僕を見ている。目が少し笑っている。
もう一人は、僕の目の前に座っている中山貴美子という女生徒だった。彼女は、今からどんな楽しい話が始まるのかと楽しみにしている子どものような顔つきで僕を見ている。
「あのう。来月全校で対抗の合唱コンクールがありますがあ」
と言って僕は、黒板に『全校合唱コンクール』と書いた。
「これは、皆さんも知っての通り課題曲と自由曲の2曲を歌って、審査されます」
「確か今年の課題曲は『翼をください』でしたよね。うん。そう言えば音楽の時間歌ってますよね」
佐久間委員長は、真面目に聞いてくれていた。僕は、課題曲『翼をください』と黒板に書いた。
「そうです。今音楽の時間に練習しているのが課題曲です。で、もう一曲自由曲があります。これは、各クラスが独自に決めて、歌います」
僕は、自由曲と黒板に書いた。
「はい、委員長!」
中山貴美子が手を挙げた。
「中山さん、どうぞ」
「はい、私は自由曲はサイモンとガーファンクルの『スカボローフェア』か『コンドルは飛んで行く』がいいと思います」
「ほう、あれはいい曲ですね」
佐久間委員長は言った。僕は続けて
「確かに、美しい曲でいい歌ですが、英語の歌ですよね」
と中山貴美子を見て言った。
「はい、外国の方の歌です。歌の意味はよく分かりませんが」
中山貴美子は答えた。なんだ、言ってる本人が歌の意味が分からないのかよ。
「あの、英語の歌は、難しいと思いますよ。このクラスでは」
クラス平均点で言うと、英語のクラス平均点は50点だった。
「そうですか。じゃあ取り下げます。違う歌にしてください」
中山貴美子は、ニコニコしながらあっさり意見を取り下げた。どうしても歌いたいと言うわけでもなかったみたいだ。彼女はクラスでは成績がトップだが、おそらく彼女自身が好きな歌を言っただけなのだろう。
「で、三上君、何か提案するんでしたよね。どうぞしてください」
佐久間委員長が僕を促した。さあ、今からが勝負だ。
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