三 赤鴉宮(二)

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「わたしは三食昼寝付きの有閑王妃として後宮に君臨する計画だったんですけど?」 「え? 赤鴉宮でも三食昼寝付きで有閑王妃はできると思うぞ。王妃の仕事がどんなものかは俺も詳しくは知らないが」 「後宮は、お妃たちがいっぱいいて、皆でお茶をしたり、花見をしたり、おしゃべりしたり、新しい襦裙を見せ合ったりして楽しく過ごせる女の園だって聞いていたのに!」  入宮早々に自分の将来図が実現しなさそうなことが悔しいのか、蓮花は涙目で訴えた。 「それは、誰から聞いたんだ?」 「大叔母様ですよ! 先々代の後宮で、それはもう楽しくおかしく過ごしたっておっしゃっていたんですわ! お友達だってたくさんできたって聞いましたわ! わたしは、ここにくればお友達ができるって期待していたのに!?」 「あぁ、それはちょっと、すぐには――しばらくは無理、かも」  蓮花以外の妃は迎えるつもりはない、と言った舌の根が乾かないうちに前言撤回をするわけにはいかない稜雅は、なんとか蓮花をなだめようとした。 「後宮を閉じたのは、別に西四宮が焼けたからだけではない。いま、この国の財政は破綻しかけているんだ。君も知っていると思うが、先代の王による奢侈と官吏の腐敗で、資金はないのにやらなければならないことが満載だ。俺が君を妃として迎えることができたのは、桓家の財力に頼ったからだ。普通、妃を迎える際は支度金を妃の実家に出す必要がある。だが、いまの王家には妃の支度金なんてものは出せないし、後宮の各殿舎を元通りにするだけの金もない。ない袖は振れないんだ。それに、後宮では先日の戦でたくさんの死人が出ている。慰霊の儀式をおこない、死者の魂が後宮から離れられるようにするにも一年はかかる」 「鎮魂は理解できますが、一年で国庫は潤うものですの?」 「どうだろう? いまのところ、難しいな。後宮に妃が増えれば増えるほど、出費がかさむ」  稜雅が真面目に答えると、蓮花は彼の袍を強く掴んだ。 「わたしは後宮で贅沢をしたいわけではないですわ」
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