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「父の後見と財力目当てでわたしを妃に選んだこともわかっていますわ」
「そこは、半分は確かにそうだが、俺は君以外の妃を迎えるつもりはないぞ」
「すぐには無理だということはわかりましたわ」
「いや、だから、一年後でも十年後でも」
稜雅が言い募ろうとしたときだった。
「おーい、陛下ぁ。いつになったら戻ってくるんだ?」
扉の向こう側から、若い男の声がした。
「あら? あれは、兄でしょうか?」
「…………透だ」
蓮花の兄である桓透は、宰相補佐官として父の仕事を手伝っている。
「ようやく嫁が到着したからって、昼間から……」
透がなにを言おうとしているのか、蓮花は最後まで聞くことができなかった。
なにしろ、稜雅は「ちょっと仕事してくる」と告げると、物凄い勢いで部屋から出て行ったからだ。
閉まった扉の向こうで、ごんっと小気味の良い音が響いたが、なんの音なのかは蓮花にはわからなかった。
「忙しいなら、わざわざ出迎えてくれなくても良かったのに」
冷めかけた茶を飲みながら、蓮花はため息をついた。
「お兄様がここまで来るということは、お父様だって内廷は出入り自由なわけよね? あぁ、もう、せっかく後宮に入ってお父様やお兄様のお小言からは開放されると思ったのに、これでは屋敷にいるのとそう変わらないじゃないの」
足下でまどろんでいた甯々を抱き上げながら、蓮花はぼやいた。
「後宮はしばらく再建されないようですしね」
芹那が新たに茶を入れながら同意する。
「やっぱり、わたしの自由気ままで怠惰なお妃生活のためには後宮が必要よ」
甯々の背中を撫でながら、蓮花は決意を固めた。
「なんとかして、後宮再建しなくちゃ」
国王の気持ちをまったく理解していない王妃は「後宮絶対必要、絶対後宮再建」と唱え始めた。
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