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「蓮花以外は妃にしない、というのは俺のわがままなのか?」
「どうでしょうか。王のわがままは別物かもしれませんから、そのあたりは父に訊いてみてくださいな」
結局のところ、蓮花もよくわかっていないらしい。
「わたしは稜雅の……あぁ、やはり陛下と呼ばなければならないのでしょうか?」
「俺は、名を呼んでくれた方が嬉しい。いまとなっては、俺の名を呼ぶのは蓮花だけだしな」
「そうですか――。わたしは潦国国王の妃になったけれど、なぜか稜雅と結婚したという気がしないのです。わたしは稜雅と夫婦になるつもりだったのに、王宮に入ってからというもの、おかしなことに稜雅に嫁いできた気分がしないのですもの。急に王宮に上がることが決まったからかしら? でも、稜雅が王になったと聞いたときも、なにが起きているのかよくわかりませんでした」
「俺は、王にならない方が良かったか? 叔父を討ったあと、蓮花を攫って誰も俺たちを知らない土地に逃げた方が良かったのか?」
「稜雅が王になりたかったのであれば、別にそれでかまわないと思います」
「――――王になりたかったわけじゃない」
「そう……ですか」
ゆっくりと首を傾げた蓮花は、稜雅の手を掴んだ。
「わたしは稜雅が王でも盗賊でもなんでもかまいませんが、また会えて嬉しかったです。父から、あなたがわたしを妃として王宮に迎えたいと言っていると聞いたとき、わたしのことを覚えていてくれたことに喜びました。だって、あなたはうちを出て行ってから、父とは手紙のやりとりをしていたのに、わたしには手紙の一通もくれなかったでしょう? わたしが送った手紙に、一度も返事をくれなかったでしょう? まぁわたしも、忙しかったら無理に返事は送らなくても良いと書きましたけど」
蓮花の手のぬくもりを感じながら、稜雅は黙り込んだ。
どんな言い訳をしたところで、彼女に手紙を送らなかった事実は変わらない。
「わたしを妃に選んだのが父の後見と財力が目当てだったとしても、わたしのことを思い出してくれて嬉しかったですわ」
「俺は蓮花と夫婦になりたかっただけなのに、なりゆきで王になる羽目になったんだ」
稜雅は勢いよく蓮花の両手を引いて胸まで抱き寄せると、腕の中に閉じ込めた。
「なりゆきなんですの?」
顔を上げて蓮花が尋ねる。
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