二 赤鴉宮(一)

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「誰も使ってないが、赤鴉宮も空き部屋がたくさんあるから、こちらで一緒に暮らした方が警備も楽だし、女官の数もそう増やさずに済むだろう? 太白宮は屋根の修理が必要だし、月魄宮は塀が崩れ落ちているし、王妃が暮らすには不都合があるんだ」 「そうですか。で、なんでわたしの部屋が陛下の隣なんですか」 「そこが一番広い」 「一番広い部屋なら陛下が使えばいいじゃないですか!」 「俺は、広い部屋は落ち着かないんだ。どうせ、着替えて寝るだけの部屋だし」 「は、あ?」  言い訳がましい稜雅を見上げた蓮花は、自分のために用意された部屋ではなく、隣の部屋の扉をさっと開けて覗き込む。  中にはほとんど調度品はなく、()(しど)()(しょう)(びつ)があるだけの殺風景なものだった。なぜか寝台の横には剣や槍が並べてある。  しかも、桓邸の物置よりも狭い。 「この辺りの部屋は最近まで物置として使っていたそうだ」 「えぇ……そんな感じですね……」  ほんの半月前まで前王が使っていた部屋で寝起きするのはさすがに躊躇するが、物置として使われていた部屋を王と妃が使うのもどうかと蓮花は思った。  稜雅は物置で寝起きしても気にしないかもしれないが、蓮花は大いに気にする。 「隣の部屋はかなり広いぞ」 「そういう問題じゃないんですけど」  ぼやきながら蓮花が廊下に出ると、女官ふたりが音もなく王妃のために用意した部屋の扉を開けた。  中には新しい調度品が並べられ、蓮花が桓邸から運ばせた愛用品の数々もすでに広げられている。  確かに室内は奥行きがあり、広かった。  衣装を入れた(うるし)()りの櫃が三つ並び、鏡台、()(でん)で飾った手鏡、円卓や椅子、文机、書棚などが置かれている。香炉や燭台も並んでおり、茶道具を収めた棚もある。円卓の上に置かれた青磁の花瓶には、黄色い菖蒲の花が二輪飾られている。  贅を凝らした王妃の部屋と呼ぶにふさわしい設えだ。  しかも、桓邸の蓮花の部屋の二倍以上の広さがある。  奥は簾で区切られており、その向こう側に臥所があると思われた。  はっきり言って、隣の稜雅の部屋とは雲泥の差だ。 (わたしの部屋はこれで良いとしても、王の部屋がというのはどうかと思うわ……)
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