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一 入宮
「まぁ……！ さすが王城。立派だこと」
履に足を通し馬車から下りた桓蓮花は、瑠璃瓦で覆われた壮麗な倖和殿に目を瞠った。
目の前には朱色で塗られた柱が整然と立ち並んだ回廊が延びており、その天井は彩色画で装飾されている。床には大理石が敷き詰められており、潦王国国王の居城にふさわしい豪奢な宮殿だ。
「ここが今日からわたしが暮らす長春宮かしら」
華やかな色合いの襦裙の裾を侍女の芹那に整えてもらいながら、頭を垂れている武官のひとりにおっとりと尋ねた。
潦国の第九代国王游稜雅の妃として入城した蓮花は、歴代王妃が暮らす殿舎は内廷である倖和殿の中にある西四宮と呼ばれる区域の長春宮であると聞いていた。
青く澄み切った空の下、うららかな春の日差しが王宮に降り注ぎ、さわやかな風が蓮花のが肩巾をふわりと揺らす。
漆黒の長い睫に彩られた大きな黒い瞳、結い上げられた艶のある長い黒髪とそれを飾る金銀の簪、白磁のようななめらかな肌、華奢な肢体に豪奢な衣装を身に纏った十代半ばの少女は、ずらりと並んだ武官の姿に臆することなく、優雅に微笑みながら辺りを見回した。
「いえ、こちらは東四宮のひとつ、赤鴉宮でございます」
壮年の護衛官がかしこまった口調で答える。
「赤鴉宮？ それは、陛下のお住まいではないの？」
いかにも深窓の令嬢らしい品のある立ち居振る舞いと鈴を転がすような声で武官たちを魅了しながら、蓮花はさらに尋ねた。
潦国の宮城は外廷の泰和殿と内廷の倖和殿に分かれている。
内廷である倖和殿の中にはさらにいくつもの殿舎があるが、その中の東四宮と呼ばれる区域が主に王の居住域、西四宮がいわゆる後宮と呼ばれる妃たちの居住域と定められていた。
「はい。さようでごいます」
護衛官は年若い妃の質問に対して律儀に頷いた。
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