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「きょ、教科書、あ、ありがとう。あの、迷惑かけて、ごっごめんなさい」
これだけ言うのに、頭の中で何度もシミュレーションを繰り返した。それでも噛んでしまっているし、目も合わせられない。
黒崎くんは差し出した教科書を受け取って、中を確認することなく机に入れた。
それから、スポーツバッグを肩に背負うと、低い声で言った。
「なんで、そんなびびってんの? 何もしてねぇのに怖がられるの、気分悪い」
鋭いナイフで切りつけられた気がした。
いつもの不機嫌そうな声じゃなく、不機嫌な声だ。彼の声には、明らかな嫌悪と怒りが滲んでいた。
「あ……」
すぐに謝ろうとしたけれど、唇が震えて声が出ない。
怖くて彼の顔を見ることすらできなかった。
まるで体中の血液が凍っていくみたいに、手足が冷たくなる。
何も言えずに固まっていると、黒崎くんはそのまま教室を出て行ってしまった。
体の力が抜けて、ヘナヘナと腰が抜けたみたいに椅子に座り込む。
由真ちゃんと夏梨ちゃんが駆け寄って来てくれたけれど、私はしばらく話すことも立ち上がることもできなかった。
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