2.不機嫌な人

6/12
前へ
/191ページ
次へ
☆ 「それでね、怒って出て行っちゃったの」  私が今日あった一部始終を話すと、ブルーは優しい声でニャアオと鳴いた。  丸まった背中をなでながら、何度目かの後悔のため息が落ちる。 「あんな失礼なことされたら、誰だって嫌だよね……」    勝手に怖がって、呼ばれても顔も見ず、話しかけられても返事もしない。  黒崎くんが不快に思うのは当然だ。  自分のことに必死で、そんなこともわからなかった。  けれど、あの怒りのこもった声を思い出すと、今でも体が竦む。  頭ではわかっているのに、心の底にある恐怖は拭えなかった。  ブルーがまた優しく鳴いて体をすり寄せる。心を撫でるやわらかなぬくもりが、背中を押してくれている気がした。 「うん、明日ちゃんと謝るね。がんばる」  澄んだ青色の瞳がこちらを見上げる。  綺麗だな、と思いながらもう一度なでようとした時、ブルーの首元に何かが見えた。  顔を近づけて見ると、首輪に薄いピンク色の紙が結ばれている。  ……手紙?  取って、と言うように、ブルーが私に向けて首を伸ばす。首輪の鈴が揺れて、また軽やかな音を鳴らした。 「じっとしてね」  私はブルーが痛くないようにそうっと結び目を解いて、その紙を取った。  ブルーが短くニャッと鳴く。    ドキドキしながら細く折りたたまれた紙をひろげると、中に綺麗な文字が見えた。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加