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☆☆
「黒崎くん、おはよう! 昨日は嫌な態度をとってごめんなさい」
用意した言葉を、頭の中で何度も繰り返す。誰もいない場所では小さく声に出して笑顔つきで練習もした。
おそらく緊張でうまく笑えていなかったと思うけれど。
「大丈夫! 黒崎のことだから怒ったことも忘れてるよ」
「そうそう。おっす、昨日はすまん! くらいのノリでいけばいいよっ」
由真ちゃんと夏梨ちゃんにも励ましてもらって、緊張しながら黒崎くんが来るのを席で待つ。
けれど、彼が教室に入ってきたのはHRが始まってからだった。
「寝坊?」
「朝練」
長谷くんの問いかけに、黒崎くんはいつもどおり短くひと言を返す。
そちらを見なくても、その声だけで不機嫌なことがわかった。
決意がしゅるしゅると音を立ててしぼむ。
今は無理だ。
もう少し機嫌の良いときにしよう。
そう思って機会を待つことにしたけれど、視界の端っこに映る姿が気になって授業中もまったく集中できなかった。
黒崎くんは授業中は寝ていることが多い。起きていても、頬杖をついているから顔は見えない。
まだ怒っているかな。
威圧感のある大きな体からは、話しかけるなオーラが出ているようにすら思えた。
その上、授業が終わっていざ話しかけようとしても、黒崎くんは友達に呼ばれてすぐに教室からいなくなってしまったり、授業中の延長で寝ていたりして、話しかける隙がない。
そうしているうちに時間だけが過ぎていって、私は謝るタイミングを完全に逃してしまっていた。
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