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登校してきた時に、無理やりにでも謝ればよかった。謝罪どころかおはようの挨拶すらできていないことに気づいて、ますます気持ちがしぼんでいく。
でも、今日を逃すときっと謝れないことは自分でもわかっていた。
ブルーを思い浮かべて、残りわずかな勇気をふり絞る。
………まず声をかけて、すぐに謝る。
私は頭の中でシミュレーションを繰り返し、4時間目が終わってすぐに教室を出て行こうとする黒崎くんを呼び止めた。
「あ、あのっ。黒崎くんっ」
思いのほか大きくなってしまった声が、お昼休みの教室に響く。
振り向いた黒崎くんは、少し驚いた表情をしていた。
私も自分の声の大きさにびっくりしたくらいだ。みんなに聞こえないように、こそっと話そうと思っていたのに。
視界の端で、教室にいるみんながこちらを振り向いているのが見えて、失敗したと思った。
でも、後には引けない。
「あ、あの……き、昨日は」
汗でしめった手で、スカートをぎゅっと握って恐怖を抑え込む。
そして、用意したフレーズを頭の中で再生して口に出そうとした時、後ろから大きな声がした。
「えっ、何!? 北野ちゃん、まさか? え、まさかまさか?」
すごく嬉しそうな顔をした長谷くんが、黒崎くんと私の間に割って入ってくる。
まさか、ってなんだろう。
彼の言葉の意味も、何をそんなに喜んでいるのかもわからなくて戸惑ってしまう。
長谷くんの大声がまた注目を集めて、まわりの空気がさらに騒がしくなる。
わわわ、早く謝らないと……。
焦っていると、頭の上で小さく舌打ちが聞こえた。
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