2.不機嫌な人

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 みぞおちの辺りに、ぐっと力が入る。 「くだらねぇ」  続いて聞こえた吐き捨てるような言葉が、胸を突き刺した。停止ボタンを押されたように体が固まって動けない。 「黒崎っ。女の子に向かってそんな」  あわてて取りなそうとしてくれた長谷くんを無視して、黒崎くんが教室を出ていく。    ……また怒らせちゃったんだ。  そのことだけはわかった。 「長谷! デリカシーなさずぎ!」 「いだだだだ! ちょ待っ、だってあんなの見たら誰だって……」  由真ちゃんに締め上げられて、長谷くんが悲鳴を上げる。それを止めることができないくらい、私は呆然としていた。  朝から謝ればよかった。  誰もいなくなるまで、待てばよかった。  後悔がぐるぐると頭をめぐる。 「……詩ちゃん、香奈か悠里に頼んで席を替わってもらう?」  夏梨ちゃんが労るように背中をなでてくれる。私はぷるぷると首をふった。  そんなことをしたら、また嫌な気分にさせてしまうかもしれない。それとも、替わってもらった方が黒崎くんの怒りはおさまるのかな。  どうすればいいのかわからなかった。  クラスの女の子たちが遠巻きにこちらを見ながら、何か話している。自己嫌悪と後悔が津波のように押し寄せてきた。  でも、絶対に泣いちゃダメだと思った。
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