12.いつかきっと

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 かと言って、手紙にそのことが書いてあるはずがない。  それでも、黒崎くんからの手紙だと思うと、指先が震えてしまった。  ……そうだ。  文通のことも話さなきゃ。  水泳の補習や朝陽くんのことに気を取られて、すっかり忘れていた。  いろいろ考えながら丁寧に折り畳まれた便せんをそうっと開いて、思わず「え?」と間抜けな声が漏れる。 『明日の朝4時に家の前に出てきてください』   手紙にはこの一文だけが書かれていた。  この他には、なんの詳細もない。   「これって、黒崎くんが書いたの?」  不思議に思ってブルーに尋ねても、当然答えは返ってこない。    黒崎くんは、私が文通相手だとは知らないはずだ。  じゃあこれは、黒崎くんの中では別の人宛に書かれたものなんだろうか。 「ううっ、朝4時に誰と会うつもりなんだろう」  だって、こんな時間に呼び出すなんて親密な相手に違いない。  その相手は私だけど、黒崎くんの中では私じゃないからややこしい。    ……それとも、もしかして黒崎くんは気づいているのかな。  考えても答えは出ない。  光に透かしてみたり火で炙ってみたりして調べたけれど、隠し文字も見つからなかった。 「相手が私だと知ったら、黒崎くんどう思うかな……」  びっくりするかな。  それとも、ガッカリするかな。  怒ったりは……しないよね。  ぐるぐる考えても、やっぱり答えは出ない。  返事を催促するように、ブルーがニャアアアオと長く鳴く。  その声に背中を押されて、私は勇気を出して返事を書いた。 『待っています』  ドキドキしながら、それをブルーに首輪に結ぶ。 「黒崎くんに、渡してね」  招き猫にお願いするみたいに柏手を打つと、ブルーはびっくりしたようにピョンと跳ねた。
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