13.それはきっと、夜明け前のブルー

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 10分ほどして着いたのは、海沿いの堤防だった。    ……こんなところがあったんだ。  引っ越してから数ヶ月経つけれど、まだ海の方は探索していないことを思い出す。    共学へ転校することに手一杯で、海が近いと聞いたことも忘れていた。 「こっち。暗いから足元に気をつけて」  暗闇の中でキョロキョロしていると、黒崎くんは慣れた様子で堤防に作られた小さな階段を上っていく。  そのあとをついて堤防に上り、思わずため息が漏れた。 「わ……!」  波の音と潮風が押し寄せてくる。  まるで包み込まれているみたいに海を近くに感じた。  遠くまで続く闇よりももっと濃く暗い黒色に、波だけが白く浮かび上がる。  打ち寄せて静寂に溶けていく波音と、潮風が運ぶ夜の匂いに、きゅうっと胸が苦しくなった。 「もしかして、海見るの初めての人?」    海に足を投げ出すようにして座り、黒崎くんが私を見上げる。  暗いからよく見えないけれど、笑っているに違いない。 「見たこと、ありますっ」  前にも同じようにからかわれたことを思い出して唇をとがらせると、黒崎くんは声を立てて笑いながら隣に座るように手招きした。 「ブルーの目の色が空の色に似てるって、手紙に書いたの覚えてる?」 「は、はい。夜明け前の、空の色……」 「ん、それを北野に見せたくて」    またきゅうっと胸が苦しくなる。  よく見えなくても、優しい声から黒崎くんがどんな表情(かお)をしているかが想像できた。
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