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3.前途多難な石の日々
翌日、重い足を引きずるようにして登校すると、私がみんなの前で黒崎くんに告白して、こっぴどくフラれたという噂が広まっていた。
廊下を歩いても教室にいても、無数の針のような視線がつき刺さる。
「急に有名人だね、詩ちゃん」
「黒崎相手に堂々と公開告白した猛者だって」
「猛者……」
何、その猛々しい武士みたいなの……。
きっと身の程知らずだと言われているんだろう。ヒソヒソとささやく声が刺のように痛い。
大きな声で誤解だと伝えたい。あれは、告白じゃなく謝罪だって。
でも、実際は目立たないように小さくなって、噂が消えるのを待つことしかできなかった。
私は猛者でも武士でもなく、怖がりの小心者だ。
とぼとぼと教室に戻って自分の席で次の授業の準備をしていると、前の席の長谷くんが帰ってきた。
「昨日はごめんね、北野ちゃん。告白の邪魔しちゃって!」
大きな声であっけらかんと謝られて、ぎゃあっと叫びそうになる。
「あの、昨日のあれは、こ、告白じゃなくて」
「わかる、わかるよ。あの黒崎に公開告白するとか、ある意味勇者だもんね。それだけで俺はすごいと思う!」
「いえ、あのっ。だから、そ、そうじゃなくて」
「大丈夫、恥ずかしいことじゃないって!」
話が通じない……。
必死に弁明したけれど、長谷くんはひとりで納得して頷き、生温かい笑顔を浮かべるだけで、全然話を聞いてくれなかった。
それどころか「俺、協力しよっか?」と、間違った方向に進んで行ってしまう。
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