13.それはきっと、夜明け前のブルー

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「わ、私も、いつも励まされてます。ブルーが来てくれて、花さんと黒崎くんと文通して……あ、もちろん現実の黒崎くんにも……」 「最後のは、完全におまけだろ」 「え、あ、それは」  呆れたように言う黒崎くんに反論しようとした時、彼の目線が何に気づいたようにふっと逸れる。  つられて振り向いて、ハッと息を呑んだ。  真っ暗だった海の向こう、水平線が紫色に変わっていく。  長かった夜に別れを告げるように、ゆっくりと空が深く濃い青色に染まっていく。 「わあ……」  思わず声が漏れた。  見上げると、空一面に広がる綺麗な瑠璃色がじんわりと心に染み込んでくる。  切なさと懐かしさがないまぜになったような不思議な感覚に包まれた。  世界が青く染まる、夜と朝の間。    ……ブルーの瞳の色だ。  言葉を失ったように海と空を見つめていると、水平線に薄っすらとオレンジ色の光が浮かび上がるのが見えた。    青一色だった世界が、そこから段々と淡いピンク色に変わっていく。  ゆっくりとグラデーションを描きながら夜が終わり、朝が始まる。  世界は本当に美しいと思った。 「夜明け前の空が一番暗いって、知ってる?」  黒崎くんが空を見上げたまま、ひとり言みたいに呟く。 「西洋のことわざらしいんだけど、俺はこんな夜明けの空が待ってるなら、真っ暗な中でも頑張れるなって思った」  真っ暗な中でも……。  苦しくても辛くても前を向く、黒崎くんらしい言葉だと思った。 「だから、タイムが伸びなかったり試合に負けたりしたら、いつもここに来るんだ。新しい一日のはじまりを見て、またスタートが切れる」  黒崎くんの言葉を、心の中で繰り返す。  一日のはじまり。  新しい世界のはじまりを見た気がした。
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