3.前途多難な石の日々

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 そんな中、黒崎くんも席に戻ってきて、私は全身から冷や汗が吹き出るくらい焦った。  この噂は、黒崎くんの耳にもきっと届いているだろう。嫌な気分になっているに違いない。  そう思っても何もできなかった。  黒崎くんは授業中も班ごとのグループワークの最中も、一切私を見ないし話すこともない。  私も、不機嫌そうな彼を見ると震え上がるほど怖くて、謝ることも話しかけることも諦めて完璧な石と化していた。  そうしているうちに中間考査が始まった。  テスト期間中は黒崎くんと席が離れる。少しずつ噂も下火になるはずだ。もしかしたら彼の怒りも薄れていくかもしれない。  それを願って毎日を過ごしていた。  あれからブルーの飼い主さんとの文通が続いていて、夜になるとブルーは手紙を持って来てくれた。  ブルーは5歳で、ロシアンブルーとシャムのミックス。あの青い目はシャム猫のお母さん譲りらしい。  チーズとささみが大好き。最近のお気に入りは鈴のついた猫じゃらしで、夢中になって遊んでいるそうだ。  いろんなブルーを知ると、ますます可愛く思えてくる。  それに加えて、飼い主さんとの手紙のやり取りも毎日の楽しみになっていた。  飼い主さんは自称「77歳のおばあちゃん」のとてもかわいい人だ。本名かどうかはわからないけれど、手紙の最後にいつも「花」と記されているから、花さんと呼んでいる。  最近ではブルーのことだけじゃなく、お互いの好みや趣味、学校のことも書くようになった。  恋人はいるかと聞かれて、ずっと女子校だったから男の子が苦手だと伝えると、花さんも女子校だったことや亡くなったご主人との馴れ初めを教えてくれた。  顔も本名も知らない間柄だからこそ、ちょっとした悩みも打ち明けることができた。  テスト期間が終わるとまた石になる毎日が始まる私にとって、花さんとの文通とブルーとの交流は何よりの癒しだった。
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