3.前途多難な石の日々

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 順調に撮影は進み、最後は水泳部。  水泳部は毎年全国大会に出場しているらしく、予定表に書かれている部員数も一番多い。  最近改装されたという屋外プールはとても綺麗で、学校の期待の大きさが伝わってくる。この他に、豪華な室内プールもあるというから驚きだ。 「すみません、入って少しだけ待ってもらえますか? 今タイム計ってて」    マネージャーさんに促されてプールサイドに出ると、かすかに塩素の匂いが鼻先をくすぐる。短いホイッスルの音とかけ声が響き、それに重なる水音が心地よい。  立ち上がる水しぶきが、太陽の日差しをうけてきらきらと輝いて見えた。  気温が高くなってきたとはいえ、まだ5月中旬で水は冷たいだろう。  それなのに、ここだけ一足先に夏が来ているみたいだ。  そんな中、ひときわ速く泳ぐ人がいた。  ……わ、あの人すごく速い。  8レーンあるプールの真ん中を、ぐんぐん進んでいく。  つい見入っていると、隣でシャッターを切る音がした。部長さんがカメラを構えて、夢中で写真を撮っている。  私はカメラを始めたばかりだけど、部長さんが彼を撮りたくなる気持ちが理解できる気がした。  まるで水と一体化しているみたいに、力強くてしなやかで、とても美しい。  こんなふうに泳げたら、どんなに気持ちがいいだろう。  幼稚園の頃にプールで溺れてから水は苦手で、小中学校の授業でも私はいつも補習組だった。25m泳ぐことすら、夢のまた夢だ。 「53秒31!」  マネージャーさんがプールに身を乗り出して、大きな声で叫ぶ。  そのタイムがいいのか悪いのかはわからないけれど、ゴーグルとキャップを外した彼は軽く首を傾げてプールから上がった。  瞬間、黄色い歓声が大きく響く。  びっくりして見ると、プールをはさんだ反対側のフェンスの向こうに女の子の集団がいた。
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