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☆
チリンチリン、と可愛い鈴の音が響く。
しばらくしてから、ニャアオと私を呼ぶ声がそれに続く。
午後8時。
いつもこの時間になると、庭に一匹の猫がやってくる。
彼の名前は、ブルー。
宝石みたいに綺麗な青い目をしているから、そう名づけた。と言っても、本当の名前はわからない。
ブルーは通い猫だ。
よく手入れされたグレーの美しい毛並みをしているし、小さな鈴がついた首輪をしているから、きっとどこかのおうちで飼われている猫なんだろう。瞳の色と同じ青色の首輪が灰色の優しい毛色によく似合っている。
「こんばんは、ブルー。ちょっと待ってね、今日は新しいおやつがあるの」
私がいそいそと網戸を開けて縁側に座ると、ブルーも足音を立てずに跳びのって、少しだけ離れたところに座る。
チリン、と優しく鳴る鈴音が返事をしているみたいに聞こえた。
ブルーは人懐っこいけれど、来てすぐに近づいたり飛びかかったりはしない。
今も、人ひとり分くらい間を空け、水晶のように透き通った青い瞳でこちらをじっと見つめておやつを待っている。
ふふっ、可愛いなぁ。
小さい頃に手をひっかかれたトラウマで、ブルーに出会うまでは猫を可愛いなんて思ったことはなかったのに、今では毎日この時間が待ち遠しい。
「今日はね、席替えをしたんだよ」
いつものように今日の出来事を話しながら、魚の形をしたおやつを床の上にそっと置く。
ブルーは私の手が離れたのを確認してから近づいて、小さな舌をぺろりと出してそれを食べた。
「それがね、由真ちゃんと離れちゃって、前の席も隣の席も男の子なの」
言葉にすると、さらに落ち込んでしまう。
ふいに昔のことを思い出して、鉛玉を飲み込んだみたいにずしりと心が重くなった。
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