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私は幼稚園の頃、朝陽くんという男の子にいじめられていた。
鞄の中に大量のダンゴムシを入れられたり、何日もかけて作った泥だんごを踏みつぶされたり、綺麗に結ってもらった髪をぐちゃぐちゃにされたり。追いかけられて階段から落ちたこともあった。
怖くて幼稚園に行けなくなって、パパの転勤をきっかけに遠くの町に引っ越し、小学校から女子校に入った。
あれから9年が経って、右の額の縁に残る傷跡は薄くなったけれど、あの時の恐怖は今もまだ消えていない。
クラスの男の子は、朝陽くんじゃない。ひどいことはされない。
頭では理解していても、いざとなると普通に接することはかなり難しかった。
「明日からやっていけるかな……」
せめて近くにひとりでも女の子がいればよかったのに。
そう思って、何度もため息を吐いてしまう。
あの後、唯一残された斜め前の席も男の子が座り、私の四面楚歌が確定した。
前の席はサッカー部の長谷くん、隣の席は水泳部の黒崎くん、その前が帰宅部の橋本くんだと、由真ちゃんが教えてくれた。
私はまだ、彼らと一言も話していない。
「早く次の席替えしないかなぁ。次は夏休み明けだって。長いよね」
話を聞いて、ブルーがニャアオと鳴いて小さな体をすり寄せてくる。
その仕草が励ましてくれているようで、じわりと心があたたかくなった。
ブルーと出会ったのは、1ヶ月ほど前。
パパの転勤を機に小中高一貫の中学校から今の高校に入学して、慣れない共学に少しも馴染めずにいた頃。
縁側から続く庭に、灰色の綺麗な猫が現れた。
それが、ブルーだ。
青色の目が吸い込まれそうなほど美しくて、苦手なはずの猫なのに不思議と怖くなかった。
動物は弱っている人がわかるというのは、本当のことなのかもしれない。ブルーはゆっくりと私のそばに来て、甘えるように体をすり寄せて慰めてくれた。
それからブルーは、毎日のようにやって来るようになった。今ではこっそり名前もつけて、毎晩こうして話をするのが私の日課になっている。
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