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「わかんない……」
「もー、詩ちゃんってば。香奈とか悠里とか、すっごく羨ましがってたんだよ」
夏梨ちゃんが焼きそばパンをかじりながら、ため息を吐く。
なんだか申し訳ない気持ちになって、必死に記憶を辿っていると、
「あ、そういえば2組の子、黒崎に告白してフラれたらしいよ。興味ないってバッサリ」
「ひゃー、キツいなぁ。女嫌いって噂、本当なのかな」
「どうなんだろ。黒崎って中学の頃から有名だったから、ファン同士が揉めたり変な噂を流されたりして大変だったとは聞いたけど……」
話を聞いているだけで、背筋が寒くなった。
目の保養なんて、とてもできそうにない。
「それくらいモテるのもすごいよね」
「もしかして少女漫画的なギャップがあったりして。普段は冷たいのに時々さりげなく優しくてドキッとしちゃう、みたいな」
「何その不良が捨て猫に傘を差してあげてた的なの」
……猫。
ふとブルーを思い出して、なんとなく頭の中でふたりの話に黒崎くんを重ねてみる。
けれど、やっぱり最初の印象が強すぎて、彼が猫をかわいがっている姿なんて想像できなかった。
「ま、近づかなくて正解かもね。黒崎くんを狙ってる子は多いから、席が近いだけで妬まれそうだし」
夏梨ちゃんの言葉に、お箸を握りしめて大きく頷く。
私も男の子が苦手だし、ちょうどいい。
夏休みまで石になって気配を消すんだ。
それなのに、その決意は次の英語の授業中にあっさりとくずれ落ちた。
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