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……どうしよう。
英語の教科書がないと気づいたのは、授業が始まってすぐのこと。
中庭から戻ってきたのがお昼休み終了ギリギリだったから、前もって準備する時間がなくて忘れたことに気づかなかった。
今さら借りにも行けないし、もちろん見せてほしいなんて頼めない。
とりあえずノートを開いて先生の目をごまかして、長谷くんの背中に隠れてやり過ごそう。
そう思っていたけれど、間の悪いことに今日は私の出席番号と同じ12日だった。
「じゃあ、次のページを……12番北野、読んで」
「は、はいっ」
当てられたことに動揺して、思わず大きな声で返事をしてしまう。
でも、読めるわけがない。
「どうしたの? 15ページだよ」
「あ、いえっ。あの、すみません……教科書を忘れてしまって」
おずおずと申し出ると、先生は肩を竦めてとんでもないことを言った。
「早く言えばいいのに。黒崎、机をつけて見せてあげて。じゃあ、22番中村、代わりに読んで」
え、ええええ……!!!
机をつけて、黒崎くんに教科書を見せてもらう……考えただけで息が止まりそうになる。
けれど、断ろうにも、先生はすでに授業を再開してしまっていた。
どうしよう、どうしたら……。
「北野」
突然低い声で名前を呼ばれて、心臓が口から出そうなくらいびっくりした。
「は、はいっ」
必死に声を絞り出したけれど、かすれて吐息みたいになった。
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