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1.はじまりは、黒と青
登校して教室の扉を開ける時って、きっと一日のうちで一番緊張する。
もう誰か来てるかな。男の子だけしかいなかったらどうしよう。
そんなことを考えて、しばらく教室の前で固まってしまう。
今日もいつもと同じように深呼吸してから扉を開けて、ホッと胸を撫で下ろした。
……よかった。まだ誰も来ていない。
早起きして登校するようになってから、私はいつも教室に一番乗りだ。
それがわかっていても、確かめるまでは未だに肩に力が入る。
「あ、数学の課題しなきゃ」
早朝の学校は、日中と違ってとても静かだ。わざと声に出したひとり言が大きく響く。
窓から差し込む朝日が眩しい。
できたての光に新しく塗り替えられたみたいに、窓や廊下や教室の机ひとつひとつが輝いて見える。
人がいない放課後には取り残されたような寂しさを感じるけれど、眩い朝の静けさは、特別な時間をひとり占めしている気分になれる。
この澄んだ空気も、優しい静寂も、今は私だけのもの。
そう思うと、まだ馴染めない学校が少しだけ身近に感じられた。
「あれ、北野さん。おはよう」
「早いね、俺らが一番だと思ってたのに」
教室に入ってきた男の子たちに話しかけられて、思わずピンっと背筋が伸びる。
一瞬のうちに、現実が戻ってきた。
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