1.海、みたいな人

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1.海、みたいな人

 均一で微粒子のように真っ白な砂。  六月下旬、本州より一月(ひとつき)ほど早く梅雨明けした沖縄の太陽に照らされた砂は、空気と同じくカラッと乾き、掌からさらさらと落ちてゆく。  重力に任されるがまま、あるべき場所に戻ってゆく小さな粒たちをぼんやりと眺めた。  天然の砂時計は、まるで私の最期を待つかのように、時を刻んでいた。  遠巻きに見える、エメラルドとサファイアが溶け合ったように澄んだ海。  あの中に入れば、どれほど気持ちいいだろう。   このサンダルも、白いワンピースも、使いものにならなくなるほど、水を体感する果てない夢を見る。  虹色の魚たちと戯れながら、泳ぎたい。  叶わないなら、いっそ宝石のように美しい珊瑚礁に包まれ静かな眠りにつきたい。 「陽波(ひなみ)」  少し低い男性の声に、現実に引き戻される。  まだこの場所にいたい気持ちを飲み込むと、広大な海から後ろに立つ彼に視線を移した。  開けた砂浜をスニーカーで踏みしめた彼は、手を伸ばせば触れられそうな距離で私を見ていた。  白いポロシャツに黒のジーンズ姿の亜門(あもん)理人(りひと)は、私より一歳上の高校三年生。お母さんの妹の息子、つまりいとこに当たる。  血が繋がりはあるものの、理人と私は似ていなかった。  背が低く、身体が弱く、なんの取り柄もない私と、背が高く、健康で、文武両道、おまけに容姿端麗で、非の打ち所がない理人。  短めに切られた黒髪に、凛々しい眉と高い鼻、無駄なことを話さない固く結ばれた唇。  唯一、近いものがあるとすれば、その穏やかにしなった垂れ目だろうか。  彼との共通点は、そこくらいだ。
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