4.ほどける心

2/10
46人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
 てっきり叱られると思っていた私は、実の姉の深い思いに愕然とし、自分を恥じた。  一歩踏み出す勇気があれば、こんなに簡単にわかり合えたことだったのか、と。  言葉を失くしている私の頭を、お姉ちゃんは優しく撫でてくれた。 「理人の束縛は確かに度を越していたわ。姉の私が注意するべきだったのに、言えなかった」 「それは……仕方ないよ、お姉ちゃんは優しいから」 「違うわ、単に臆病なだけ、理人に嫌われたくなかったから……私ね、理人のことが好きなのよ」  今まで微塵も想像しなかった事実に、驚きを隠せなかった。  お姉ちゃんは少し寂しげに、美しく微笑んでいた。 「ずっと片想いしているの、陽波に恋する理人は自分を見ているようで……だから尚更、強く出られなかったのかもしれない。ごめんね」  秘めた想いを吐露したお姉ちゃんは、聖母マリアのように清らかに見えた。  どれほど辛かっただろう。  彼女の気持ちと、それに等しい情を持って接してくれていた理人のことも考えると、胸がしめつけられた。  私に罵声を浴びせられた、理人の悲しげな表情がくっきりと思い出される。 「ううん、そんなのいいよ、私こそ、何もわかってなくて、自分勝手で、ごめんなさい……理人にひどいこと言っちゃった」 「そう思うなら、きちんと向き合ってあげて。理人は何も、あのことがあったからあなたに尽くしてきたわけじゃないわ。うやむやにするよりも、しっかりフッてあげてよ。その方が踏ん切りがつくはずだから」 「うん……」  凛とした瞳に、やっぱりこの人の妹に生まれてよかったと、心から思えた。 「海斗くん、だっけ……彼には感謝しないとね」 「え?」 「だって、彼がこうして打ち解けるきっかけを作ってくれたんだもの」  お姉ちゃんの海斗への好意的な台詞を聞くと、ほっと胸を撫で下ろした。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!