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ふと、彼と目が合った、気がした。
勘違いかもしれないけれど、彼がこちらを見ている気がする。
まさか、そんなはずないよねと、自分に言い聞かせていると、船を飛び越えるように軽々と地に降り立った彼は、こちらに向かって歩いて来た。
勘違いでは、ない。
あまりに見ていたから、何か言われるのだろうか?
失礼に当たる行為だったなら、注意されるのかもしれないと不安が募る。
それでもその場に立ったまま、彼から目を逸らせなかった。
その人は、少年だ。
側に来れば、遠くで見るよりずっと若いことがわかる。
少し襟足の長い艶やかな黒髪をした小柄な少年は、私の目の前で立ち止まった。
「食う?」
きゅっと上がった目尻とキラキラと輝くような大きな瞳をした彼は、第一声にそう言った。
その右手には二十センチほどのまん丸い目をした、赤い魚の尾が握られている。
突然の状況に、どうしたらいいかわからず瞬きを繰り返した。
「え、ええ、と」
「魚、好き?」
「あ、は、はい、好きです」
海によく出ているのだろう、健康的に日焼けした褐色の肌に、右耳に粒のような丸いピアスが三つ、左耳に輪っか状のピアスが二つ……どれも銀色で、彼の髪色と肌の色にとても似合っていた。
漁師の正装だろうか。
水色の半袖インナーに、レインコートのように水を弾きそうな素材のサロペットを着ている。胸当て部分は白く、左足はグレー、右足は黒と色が分かれており、なんともお洒落だった。
「こいつ、食ったことある?」
「あ……ない、と思います、ハマダイ、ですよね?」
彼はパッと目を見開いた。
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