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第4話 寛解、そして…
ラパンツィスキ様が私を訪問してくださって1週間後。
侍女のワンダがまた唐突に言った。
「本日から姫殿下には護衛魔導士がお付きになります」
「えっ? 私には護衛騎士が付いているじゃない。それに加えて護衛魔導士ってこと?」
「はい。皇帝陛下のご沙汰にございます」
は~っ。お父様も何と過保護な…
ということは、あの方よね…また迷惑をかけてしまった…
「今見えられたようですよ」とワンダが言うと護衛魔導士が姿を現わした。予想どおり、ラパンツィスキ様だった。
私は第一声で謝罪の言葉を発した。
「ラパンツィスキ様。私のような役立たずのために、ご迷惑をおかけしてしました。申し訳ございません」
「謝罪には及びませんよ。私が陛下に無理にお願いして護衛魔導士のポストを作り、ねじ込んでいただいたのです。
それに殿下には過剰にご自分を卑下なさる癖がおありのようですね。これは少しずつ修正していきましょうね」
ラパンツィスキ様は粛々と話を進める。
「今日は認知療法というものをやってみましょう」
「認知療法?」
「お渡ししたメモと一緒にワークシートがあったでしょう?」
ああ。そう言われればあった気がする。
けど、やり方がよくわからなくて放置していたのだった。
時間は有り余っていたというのに…
それは気がかりな出来事について、その時の感情を把握し、認知を把握し、認知の歪みを見直し、見直し後の感情を再確認するというものだった。
私はラパンツィスキ様と一緒に侯爵家の末娘とお兄様がトラブルを起こした件について実践してみた。
結果、確かに私には過剰に自分を責める認知の歪みがあるようだ…
私は目から鱗が落ちる思いだった。
「1回では効果はたかが知れているので、今度から気になる出来事があったときは、このワークシートを書いてみることを続けてください」
「はい」
「では、区切りの良いところでお茶にしましょうか」
ワンダが声をかけてくれた。
「殿下。紅茶にはカフェインという神経を高ぶらせる成分が入っているのでお勧めしません。お飲みになるのでしたら、メモに書いた通り生ハーブのお茶にしてください」
「わかりました。ワンダ。お願いね」
「承知いたしました」
飲んでみると、これはこれで爽やかな味がしていけるではないか…
「ハーブの種類と量を変えることで味と効能が変わりますので、いろいろと楽しめますよ」
「それは楽しみだわ」
そしてその日の帰り際。ラパンツィスキ様は言った。
「明日は夜明けともにヨガという体操をしますので、動きやすい服装を用意してください。スカートは厳禁ですからね。
今日は早くお休みになってくだい。就寝前にはぬるま湯にゆっくりと漬かって、軽くストレッチをするといいでしょう」
「はい」
──いろいろとお気遣い…ありがとうございます
翌朝行ったヨガでは、自分の体がいかに凝り固まっているか思い知ることになった。
猫のポーズとかちょっと恥ずかしいポーズもあったけれど、最後に死体のポーズをしながらラパンツィスキ様に体をリラックスするよう誘導されると心地よく、心と体がすっきりした。
そうこうしているうちに、私の症状は一進一退を繰り返しながらも徐々に改善していき、半年後にはほぼ症状を感じなくなっていた。
「これでほぼ寛解しましたね」
「寛解?」
「気鬱の病は体質のようなもので再発のリスクも高いので、完治とは言わず。症状が収まったという意味で寛解と言うのですよ」
「なるほど…」
そして私の好きな慈善活動を皮切りに、少しずつ活動を始め、1年後にはほぼ元通りに公務をこなせるようになっていた。
そして、ラパンツィスキ様なしの生活など考えられなくなっていた私は、彼に求婚した。
ラパンツィスキ様は優しく微笑むと「喜んで」と答えてくれた。
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