青の時間

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「そうだ、五十嵐連絡先教えろよ」 「ん」 「聞いてよ、こいつ律儀に葉書返してきてさ。でも電話番号の一つもねーの」  実家に届き、親伝いに教えられた同窓会の知らせ。書かれていた村枝の連絡先に電話をしても良かったが、そのまま親に出席とだけ丸をして送り返してもらった。  出せと言われ携帯電話を差し出す。村枝はせっせと自分の連絡先を打ち込んでいた。 「まぁ、来ても来なくても良かったんだよ」  篠崎は来ないだろうとは思っていた。でも会えるとしたら、とも考えた。何か言いたいことがあるわけでもなく、彼の将来を心配していたわけでもなかった。あの時何を考えていたかなんて聞くこともなく、ただ一目懐かしい人物に会うかもしれないとだけ漠然と思っていた。  そしてそれは叶った。相変わらず自分を隠すような似合わない眼鏡をして、目の前にいる。少し緊張しているのは俺だけで、篠崎はずっと椅子にまっすぐ座っていた。  料理を見る振りをして窺えば目が合い、そらす。俺たちのためだけに開けてくれた店に他の客はおらず、他に気を取られることもない。  プルルと定番の電子音が響く。  篠崎がポケットから携帯を取り出し、開き見る。横を見れば村枝が俺の携帯を操作して電話をかけたようだった。 「それこいつの」  他人に勝手に渡された連絡先。太田と篠崎に渡された、俺の連絡先。切れた糸が再び繋がる。 「おまえなぁ」  言いながら取り返したそこには、篠崎の文字があった。
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