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隣に立つ男は十年前よりは当然老けた。幼さは抜け、細かった体もしっかりしたように思う。
「五十嵐は、明日用事ある?」
「ないよ」
初めてキスをしたあの時、可愛い奴だなと思った。今そうして振り返ってみればただ懐かしく、自分を好きになってくれたことが嬉しかった。
「じゃあうちに来て話さないか。もう少し思い出話でも」
「いいよ」
あの時のように瞳は不安げに揺れ動き、断られる覚悟をしているようだった。でも断りはしない。
「お前んち何処? 遠すぎるとさすがに」
「ここから電車で三十分くらい」
「まぁ進行方向同じならいいか。ついてくよ」
気持ち悪いと同級生に言われる彼を他人事のように見ていた。俺はその時付き合っていた『彼氏』だったのに、自分がもともと好きなのは女性だからって思っていた。
あいつらの前に一人で立ち一人で戦った、強い篠崎。
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