【おまけ】それなりに時間経過した後のちょっとしたもの

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【おまけ】それなりに時間経過した後のちょっとしたもの

 ずるりと体内から出ていくものに少しの寂しさと言いようのない感覚を毎度覚える。湿り小さくなって後を引くものをまとっているせいで、おそらくそう感じるんだろう。  五十嵐が後始末してくれるのを横目に見つつ、天井へ向けて体を広げた。 「童貞だったくせになんでこんな」  五十嵐は不特定多数と行為をしたことのあるおれと違って、再会したあの日が初めてだったと言った。嘘をついているとは思わない。まさかそんな信じられないとは思ったけれど、嘘をつくメリットがない。 「こんな?」  ベッドが軋む。座る五十嵐の体重で体が少し傾いた。 「こんな、に、気持ちいいんだろうって」  体から熱が引いていく。気は若いが年はとり、だんだんと何度もセックスするのは無理になってきた。一度やってしまえば日々の疲れもあってかすぐに眠くなってしまう。それでも、入れられる前と入れた後で二回いかされている。おれだけ。  隣に座った五十嵐はおれを見下ろして、軽く笑った。 「童貞だったから、だろ。こうしたら気持ちいいらしいとかこれが好きらしいとか、俺が持ってるのはお前のデータだけだし。あとは……篠崎が俺のことを好きだから」  おれが五十嵐のことを好きだから。  五十嵐はそう言ってから、恥ずかしそうに片手で顔を隠した。自信満々で言ったくせにそんな可愛い反応をする。 「そこ詳しく教えて?」 「だから、お前が俺を好きでいるから、勝手によく感じてくれてるっていうか……。別に俺がセックスうまいわけじゃないと思うから」  高校生の時のように短く切られた髪は再び伸びて、今では無精ひげだってついてくる。そんな男が耳を赤く染めている。 「好き。五十嵐のこと大好きだよ。そんな当たり前のことでこんな気持ちよくなれてるなら、すごいお得だ」  体を起こし、「ねぇ?」と同意を求めるように顔を覗きこむ。薄明りのもと恥ずかしさに目をそらす五十嵐に、愛おしさがこみ上げた。
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