青の時間

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「五十嵐髪長いなぁ」 「うち自由だから」  席に着けば酒を持ってきた太田にぽんぽんと結んだ髪をいじられた。  向かいの篠崎と真正面から目を合わせることがなんとなく気まずくて、テーブル席に斜めに座る。カウンターには開店準備の大皿と食器が並んでいた。 「ここ太田の店なんだって?」 「そうだよ」  女性も入りやすそうな綺麗な木目の店内。まだ新しいのかどこも古さは感じない。   小さな飲み屋は高校一年の時に同じクラスだった太田が開いた店だと村枝に聞いた。それなら一人くらい突然参加したとしてもいいだろうと、この誘いを受けた。 「五十嵐は、髪短いイメージだった」  眼鏡をかけた篠崎がぽつりと頭を見て言う。 「高校の時はずっとそうだったからな」  篠崎と付き合っていた時はずっと短かった。別に運動部で活発に活動していたわけではないが、少なくとも耳にかかるほども伸ばしたことは無かった。    ぐいと酒を飲み、集まった懐かしの顔を見る。同窓会の幹事をした村枝は陽気なまま大人になったようだし、太田は記憶の中より格段に太った。  篠崎は、俺と付き合っている時には眼鏡をかけていなかった。自然と別れその後に眼鏡をかけ始めたあの時、まるで人目を避けるようだと思った。 「十年も経つと禿げてるやつもいたな」  唐突に村枝が失礼なことを言った。 「ああ、結城?」  学年全員が招待される同窓会。全く記憶にない奴も当然いた。 「結城って誰だっけ?」 「ほら、野球部の目立ってたやつ」  名前だけは憶えがある。でもおそらく同じクラスになったことは無い。  飲むでもなくグラスを持ち上げ、指先に冷たさを感じた。十月の昼間はまだ暑い日もあり、冷たい飲み物は気持ちいい。 「野球部坊主じゃん。今でも刈り上げちゃえばいいのにな」 「もったいなく思うらしいよ。俺もじいちゃん禿げてるからなぁ」  村枝が自分の頭を心配して眉をひそめた。 「潔く無くしちまえ」  茶化して言えば、うーっと鼻に皴を寄せられた。それを見て笑う篠崎の眼鏡は縁がはっきりとしていて、顔よりも眼鏡を印象付ける。
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