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3-3 分からない人*
目が覚めた時には知らないところにいた。
清潔なベッドに横たわっていたボクは服を身に着けておらず、シーツを引き寄せる。
柔らかなサイドテーブルの光は遠くまでは届かない。
「あの、誰か」
曖昧な記憶を辿る。
運命の人を諦めるために行った街で、ボクは予定より早く発情期になってしまった。
薬はちゃんと打った。そして最悪の気分と戦っていたことは覚えている。
そのまま倒れてしまったのだろうか。
吐いたり漏らしたりしたボクを、誰かが綺麗にしてくれたんだろうか。
ベッドから降り、静かに足音を潜め部屋を歩く。
せめて部屋の電気をつけようと、壁際に寄る。
隣の部屋がある。
ぼんやり見える家具からして思っていたが、どこかのいいホテルなのだろうか。
細工のされたドアノブを回せば、隣の部屋から光が差した。
「――、――――」
眩しい光に目がくらむ。
ソファにいた男は立ち上がり、ボクに近づいてくる。
何を言っているのかわからなかった。
「あの、ごめんなさい。何を言っているのかがわからない」
自分が裸でいるのが恥ずかしくて、ドアの後ろに隠れた。
何語を話しているのかわからない背の高い彼は笑って、ドアを開いた。
強く開かれたドアに、一歩下がる。
「ごめんなさい。服はありますか?」
この状態をどうにかしたいと、自分の身体を指し示す。
彼は分かっているのかいないのか頭から足までじっくりと見て、そしてボクを抱きしめた。
ずいぶんと背の高いその胸にすっぽり収まるとなんだかすごく安心した。
腰をかがめ目を合わせてくれた彼は綺麗な青い目をしていて、王子様のようだと思った。
そこではっと気が付く。
この環境、そしてその整った容姿。彼は恵まれたアルファなのではないか。
でも襲われていないということは、電車で打った抑制剤が効いているのだろうか。そうだとしたらボクは具合の悪さで今すぐにでも寝込んでいいはず。
まさかアルファではない? 彼がベータならボクも彼も何も問題はない。でも確実に使用した薬の副作用が消えている理由がわからない。
大きな両手がよく顔を見せてと言うようにボクの頬に触れる。
良い匂いがする。部屋に溢れた花のせいだろうか。
青い目は優しく微笑むと、ぼんやりと匂いの元を辿るボクの唇に触れた。
何をしたいのかわからず首をかしげると、今度は彼の唇が合わせられた。
つい目を閉じる。
それが望まれているのならそうするべきだと、仕事柄何の抵抗もなかった。
長い長いキスだった。
キスをしたまま抱き抱えられ、彼は先ほどまで座っていたソファにボクを連れて行った。
その膝の上に向き合うようにボクを乗せ、まだキスは続く。
ジワリと体が反応した。
匂いは強くなり、ボクは自然とその匂いを吸い込もうと必死になった。
彼の手がボクの肌に触れ、胸の突起を指の腹で撫でる。
「あの」
セックスをすればよいのだろうか。
迷惑をかけたお礼にでも、そうしたらいいのか。
「――――」
返事をしてもらっているけれどさっぱり何かわからない。この人はそれでいいのかな。
指先でくりくりと弄られるのは気持ちが良くて、自分から腕を首に巻き付けた。
止まってしまったキスを自分から求め、腰を浮かせて近寄った。
副作用がなくなっていることへの疑問なんか、すっかり忘れ去っていた。
「あ、ごめんなさい」
いつの間にかボクのモノからは先走りが溢れ、彼の白いシャツにシミを作った。
その部分を指し示し頭を下げる。言葉が伝わらないのならジェスチャーでどうにかするしかない。
離れようとする腰を引き戻された。
彼はシミが作られたシャツを脱ぎ捨て、ボクのお尻を揉む。
「するの?」
彼がしてくれるなら嬉しい、そう思った。
お尻の割れ目を撫でる指がじれったくて、「入れて」と口にする。
彼に言葉は伝わらないだろうから、そういう気分になってもらうようにするしかない。
わざと耳元で甘えた声を出し、身体を擦りつける。
彼のベルトをいじり、外したいとアピールをする。
「――――――――」
何を言っているのかわからないけれど、表情は悪いものではない。
ボクを見る目は優しいし、熱を持っているのがわかる。
自主的に外してくれたベルトと、下ろされたファスナー。
身体の中が疼いて、早くしたいと叫んでいる。
「えっちしたい。しよ?」
下着からはみ出しそうなものに触れ、刺激を与えた。
せめてこの人の名前がわかったら、名前を呼べるのに。
この人の名前を呼べたなら、この人を求めているってわかってもらえるだろうに。
良い匂いが彼からする。飾られた花の匂いではないらしい。
ゆっくり侵入してきた指を抵抗なく受け入れた。
自分の中はもうぐちゃぐちゃで、もっと奥へと指を誘う。
「きもちいよぉ」
自分から腰を動かした。
もっと大きいものが欲しい。指じゃ足りない。
「ねぇ、して? 貴方の入れて欲しいの」
彼に触れ、耳元で精一杯甘えた声を出す。
ねぇわかって。
「―――――――」
彼は優しい顔でまた何かを言って、その大きなものを取り出してくれた。
ぐいと腰を引き寄せられ、両手でお尻が開かれる。
ボクは彼の首に抱き付いて、ゆっくりと腰を下ろした。
「ああっ」
指とは全く違う圧迫感に声が上がる。
先端を入れられただけで気持ちが良くて、頭がふわふわしてくる。
自分のものを彼に擦りつけながら自然と腰を動かせば、ぐちゅぐちゅと音がした。
「すごいっ、イイ」
身体の相性がいいってこういうこと、っていうくらい、きもちがいい。
ただひたすらに彼を求めた。
「もっとして、もっと」
奥深くまで入れて。
この身体が壊れてしまってもいい。それほど強く愛してほしい。ボクだけを見て、貴方だけのボクにして欲しい。この人が欲しい。
頭がおかしくなっていく。
発情期の最中にアルファとやった時みたい。欲しくて欲しくてたまらない。
じゃあやっぱりこの人はアルファなのかな。
「―――――――」
彼は何かを言ってから、ボクを離した。
しないの? と目で言えば、促されテーブルに手をつかされた。
「あうっ」
後ろから激しく突かれ身体が揺れる。
「あっ、あっ、すごぃ……」
入りきらないだろうと思っていた彼のモノが奥へ奥へと侵入してくる。
このままだと自分の身体は裂けちゃうんじゃないかって思うくらい強く犯される。
ひたすらに声が漏れ、身体が喜ぶ。
目の前がちかちかして、彼に取り込まれていくようだった。
倒れそうになる身体を彼が支えてくれる。
「いくっ、いっちゃう!!」
自分の手で自身に触れると、ボクの腰を押さえていた大きな手がその上から重なった。
「あっ――」
世界が白く弾け飛ぶ。
中に彼のものがどくどくと放たれるのが分かった。
離れたくなくてきゅうっと締め付けると、彼はボクに覆いかぶさり首筋を噛んだ。
「え、なん」
痛くはなかった。
驚いた声は続かず、ボクに噛みつく彼を蹴り飛ばすこともしなかった。
番になってしまう。
一気に不安が襲い掛かる。
「―――――」
ずるりと彼のものが体内から出ていき、肩を掴まれ振り向けば彼はボクに満面の笑みを向けていた。
彼が番になることを望んだのだろうか。
けど、発情期中のオメガにアルファは煽られ望まない行為をするものだ。だからこれも……。
言葉がわからないのがもどかしい。
彼はその後戸惑う僕を抱え風呂に入り、隅々まで綺麗に洗ってくれた。
鏡で見た首筋には、彼の噛み跡があった。
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