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3-7 夢のまま
クリスマスは盛大なものだった。
前と同じように着替えさせられパーティに連れていかれ、見覚えのある顔に挨拶をした。
何人かは日本語で会話をしてくれてアルファの優秀さを見せつけられたし、受け入れてもらえていると嬉しくもあった。
アランはボクに前回と違う衣装を用意してくれたけれど、彼自身は格好に興味が無いらしく同じものだった。
もっと言えば、彼は家でも同じ服ばかりを何枚も持ち選ぶ手間を省いていた。
アランの家では三日に一度来る家政婦さんが掃除やご飯を作ってくれた。
手際の良いその人はすぐにいなくなってしまうから、基本はアランと二人きり。
たまに手を繋いで散歩に行って、雨に降られて走って帰った。
ボクの中はアランのことでいっぱいで、ずっとこのままでいられたらいいのにって願うでもなく、毎日が幸せで満ちていた。
年が明け、ふと日本のことを思い出した。
日本のお正月とは違うなぁって考えて、はやてちゃんのことを思い出した。
「あのね、日本に友達がいるんだ。その子がきっとボクのことを心配しているから、その子にだけは連絡が取りたいんだけど」
独占欲の強いアランは、それをとっても悩んだ。
友達とはいえ連絡を取らせてしまったら、ボクがあっちに帰りたくなると思ったんだろう。
「ボクはここにいるよ。ずっとアランといたい。でもはやてちゃんはきっと……心配してくれてるから」
唯一ボクのことを心配してくれるだろうあの子に、せめて一言伝えたかった。
「アランのことを紹介したい。ボクの運命の人だよって。ずっと夢見てた運命の人がボクにも現れたんだって言いたいの」
唸りを上げたアランは、ボクに動画を見せた。
それはボクが随分と前にはやてちゃんに送ったもの。
「何でこれ持ってるの?」
「送られてきた」
仕事依頼のメールに添えられていたのだという。
「この人はきっと君を知っているんだろう」
見せてくれたメールの日付は、一か月も前だった。
「はやてちゃんの番かな? 多分はやてちゃんが頼んだんだ」
そうでなければこんな動画が出てくるはずがない。
「はやてちゃんに会いたい。ダメ?」
「この相手がその"はやてちゃん"なのかわからない。もしそうなら、少しだけなら連絡してもいいけれど……」
「お願い」
膝の上で彼の首元に抱き付けば、また唸りを上げたアランはしぶしぶ、本当にしぶしぶ「分かった」と言った。
分かったと言った割には連絡を取らせたくないらしく、アランはボクには黙って短いメールを送っていた。
でも翌日にはまたボクにメールが来たことを教えてくれて、結局はやてちゃんを試すようなメールなら送ってもいいことになった。
きっとはやてちゃんならわかってくれると思うけど、少し不安だった。
***
指定した日付。日本時間に合わせた時刻。
大きな画面にサイトを映し、アランからも内容がはっきり見えるようにした。
彼がいつも使っているパソコンと、用意してもらった日本語のキーボード。
恥ずかしいから音声入力は切って文字を打つ。
日本語を話すのと聞くのは出来るけれど読み書きはまだ苦手な彼は、それでも一緒に見たがった。
ポンっと現れた『颯』の文字に、顔が緩む。
「はやてちゃんだぁ」
昔通りの気安い挨拶の文字を投げて、今海外にいると告げる。
アランはボクがいなくなることを恐れていて、具体的な現住所を教えてくれはしなかった。
だからボクは海外にいる、とだけ打ち込む。
実際は、教えてもらわずとも探ることは出来た。でもアランが安心してくれるまで自分からは何もしないほうが良いんだろうなと思っている。
「まずはアランのことを伝えないとね」
きっとそれが一番安心してくれる。
先ほどからそわそわと立ったり座ったり歩いたりを繰り返しているアランに聞こえるように言った。
ずっと連絡しなかったのは、ボクの意識が全てアランに向いていたせいだ。
はやてちゃんに連絡しなければと思ったのも最近のこと。
だけどアランが嫉妬深くて止められていたということにして送ってしまう。
少し面白く書いておけばきっと笑ってくれる。
『凄くカッコよくて、凄く優しいよ。ボクが夢見てたそのまんま』
送信した言葉に偽りはない。
夢なのかなって思って、窓を開けて風を感じ、夢ではないことを確認する。
怖くなってまた噛んでもらって、その痛みに安心した。
ボクが不安がるたびに、アランは何度でも番になろうと言ってくれる。
「ねぇアラン。またはやてちゃんと話してもいいよね?」
振り返り問いかければ、歩きまわるアランは立ち止まり怖い顔をする。
「一人ではダメだよ」
「アランがいる時ならいいでしょ?」
「……それならいいよ」
立ち上がり、不貞腐れたその顔にありがとうと手を伸ばしてキスをする。
『俺の番も同席するって』
帰ってきたメッセージに笑う。
はやてちゃんとボクは、どうやら似た人を好きになったらしい。
『お互い大変だねぇ』と送る。
ほんの少しだけ大変で、とても幸せ。
真剣に一文字ずつを目で追う、ボクの番の横顔に笑った。
終わり
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