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10 きみがいい R-18少しだけ
なんとか自宅へ連れて来たのはいいが、杉本くんは今まさにヒートに本格的に突入する寸前で、俺の腕の中で甘い匂いを強くさせていた。そしてαを求めて俺の胸元にすりすりと頬を寄せているのだから堪らない。
本当なら愛する人にこんな可愛い事をされたら嬉しいし、今すぐ交わり項を噛んでしまいたい衝動にかられる。だけどまだ俺たちは話の途中で、なし崩し的に身体を繋げ番になる事はしてはいけないと思った。
俺は『運命』なんて求めてはいないけど、ここで負けたら俺の覚悟なんてそれくらいのものだという事になる。
俺は杉本くんを本当に大事に思っているのだ。だから今日は自分の欲望は捨てる。そうする事で俺の『覚悟』を証明したい。ヒート中のフェロモンに抗って、俺は本能に流されない、『運命』なんかに惑わされないと証明するのだ。
すぐにでも理性が飛んでしまいそうな杉本くんに、抑制剤の所持の有無と普段はどうしているのかを訊ねた。杉本くんはたどたどしいながらも、普段は定期的な抑制剤の服用で抑えられていてこんな風になった事がなく、自己処理もした事がないと言った。
だとすればこのまま杉本くんをひとりにしてはおけない。
別の部屋にいても漏れた匂いに理性が焼き切れてしまう可能性は高いが、抑制剤が効いてくるまでなんとか耐えようと思っていたのだが――。
Ωにとってヒート中の性衝動は個人差はあるだろうがすさまじいと訊く。今彼の身体に触れてしまう事は躊躇われるが――――慣れているのならまだしもそうじゃないのなら、たとえ身体を繋げなくともαである俺の手で熱を発散させてあげる方が幾らか早く楽になるだろう。いたずらに苦しみを長引かせては可哀そうだ。
「今から俺にきみの手伝いをさせて欲しい。俺は服も脱がないしきみを傷つける事は決してしないと誓う。きみと本当ならこういう事はさっきの話の続きをして、きちんと想いを通じ合わせてからだと思っていた。だけど今はそんな事も言っていられない状況だ。――そうだな……これは医療行為だと考えて欲しい。こんな事を言うときみは誤解するかもしれないが、きみに魅力がないだとかきみと番になりたくないだとかそういう事ではないんだ。あえて言うなら――『運命』に勝たせてくれないか?」
今こんな説明をして何になるのか。これは俺自身を落ち着かせる為の言葉だった。本能に流されず、考える事を止めるなという戒め。
だったはずなのに、真っ赤な顔で額に玉の汗を浮かべ苦しそうに喘ぎながらも俺の話を訊いていた杉本くんは、半分も理解できていないのかもしれないが俺の『お願い』にへにゃりと笑って頷いた。
あああああ。もう、今すぐ抱きつぶしてしまいたいっ!
ぐっと噛みしめた犬歯が唇に食い込み血が滲む。
*****
杉本くんが持っていた緊急用の抑制剤を飲ませ、自分もα用の抑制剤を飲んだ。「辛いよな。ごめん。愛してるよ」と抱きしめながら何度も囁き、そのまま片方の手で器用にズボンを寛げさせて中から取り出したきみの中心を上下に扱く。後ろは――今日は触れない。
「あ……あんっ」
淫らに揺れる細い腰、快感に震える身体、甘い吐息。そのすべてが愛おしい。そのすべてが俺を誘う――。
杉本くんの嬌声とともに一層強くなるフェロモンに、抑制剤を飲んだにも関わらずこちらまで理性を失くしそうになるが、口の中に広がる錆びた鉄のような味をたよりに必死に堪えた。こんなに我を忘れてしまう程求めてしまう事は初めてで、なんとか耐えてはいるがギリギリだった。目の前の御馳走にお預けをくらった犬のように口の端からはよだれがだらだらと絶え間なく垂れ続け、俺の中心は痛い程張りつめていた。ズボンは染み出た先走りでぐしょぐしょで、いつ襲ってしまってもおかしくはない状態だ。
コレを今すぐきみにねじ込んで、ぐちょぐちょに犯したい!
泣かせて啼かせて、色づくきみを俺が花開かせたい――――っ!!
俺の……俺だけの――
「ふーふーふー……っ」
欲望を振り払うかのようにぶんぶんと勢いよく頭を振ると、俺はもう一度ぐっと深くふかく自分の唇を噛みしめた。
――――――喜久乃っ!
何度もなんども俺の手によってイかされた杉本くんは、イったからなのか抑制剤が効いたからなのか少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「――さか……ぐ……さ」
善がり啼いて目元は赤く腫れ声が掠れていてしまっていて、息も絶え絶えだ。杉本くんにとってどれ程大変だったのかを物語っていた。俺は労うように頭を優しく撫でた。
「どうした? まだ苦しいのか?」
「――が……」
そう言うとゆっくりと顔が近づいてきて、俺の唇をぺろぺろと舐め始めた。
「!!」
「血……痛い――です、か……?」
「あ……」
自分で噛みしめて出てしまった血を舐めとってくれたのか――。これは先ほどまでの行為の最中も杉本くんがやってくれた事なのだ。あの時はただキスのつもりで舐めているのだと思っていた。理性なんか残っていないはずなのに必死に傷ついた俺の唇を舐めてくれていたなんて――。
杉本くんの中の深い部分が目の前にいるのが俺だと認識してくれていたのだろうか。
ただ熱を発散させてくれるだけの相手なら傷を気遣う必要なんてないし、気遣えるはずもなかった。これは本人すら意識しないで見せてくれた杉本くんなりの『証明』なのだろうか――。
あらかた舐めとり満足したのかニンマリと笑って、そのまま意識を手放した。
可哀そうに、ギリギリだったのだろう。それなのに俺を気遣って……。
すーすーと寝息を立てて眠る杉本くん。このままでは寝ていても気持ちが悪いだろうと後処理をしてゲストルームのベッドに寝かせた。
俺も杉本くんの飛び散ったあれやこれやを軽くシャワーで流し、自分の痛いほど張りつめてしまった熱の処理も済ませると、杉本くんが目覚めた時に食べられるように食事を作る事にした。
杉本くんが目覚めたらまずは軽く食事をして、それから話をしよう。
きみの本心が訊きたい――。そして伝えるんだ。
俺には『運命』なんかいらない。きみがいい。もうきみなしでは生きてはいけないのだと――。
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