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②
日を改めて杉本くんのご両親に挨拶と、番になり結婚する許しを貰いに出向いた。
あらかじめ杉本くんから軽く話は訊いていたようだったが、俺は前の番の事も包み隠さず全て話した。俺の口から話さなくては意味がないのだ。
ご両親は俺の話を訊く前からすでに少し涙ぐんでいて、話し終わる頃には号泣して抱きしめてくれた。勿論あとでちゃんと杉本くんとの事を許してくださった。
俺と杉本くんの年齢差や、死別ではないΩに捨てられたバツイチαという特殊な境遇を受け入れてくださって、泣いてくださる心優しい人たち。杉本くんが素敵なのはこのご両親に育てられたからだと思った。
それからとんとん拍子に話は進んで、次のヒートで番になりその翌月には結婚式を挙げた。スピード婚に周囲はかなり驚いていたが、皆祝福してくれた。及川さんとそのパートナーも式に参列してくれて、涙ぐむ及川さんの涙をパートナーが優しく拭っていて、俺たちもああいう夫夫になりたいと思った。
俺たちは『運命』の相手というわけではない。
杉本くんはただ俺に寄り添い、何も求めてはいなかった。10年という長い間、ただ俺の幸せだけを願っていたと言う。
これは『運命』なんかよりもっとすごいただの愛』なんじゃないだろうか。ただ相手の事を大切に想い愛しく想う『愛』。俺がβなら――と求めたモノだ。好きになって愛し合って結婚する。すごく分かりやすい。『運命』なんてどうでもいい。俺たちふたりが互いに互いを大切に想っていて、愛し合っている事が大事なんだ。
アイツとは多分それがなかった。俺からの一方通行だったんだ。だから終わった。それだけの話だったんだ。
最初は杉本くんの事をβだと思ってその手を取ったけど、その手はただただ温かくて――安心できたんだ。ほっと息が吐けた気がしたんだ。アイツには終ぞ感じる事のなかった想いだった。
俺は幸せになりたい。杉本くんを幸せにしたい。他の誰かとではなくふたりで幸せになりたい。
だから俺は、俺たちは、『運命』よりも『愛』を選ぶ。
杉本くんがΩでも俺はもう恐れない。
もし今俺たちの前に『運命』が現れたとしても何も変わらない。
俺たちは本当の意味で『運命』に勝ち続けると思えるから。
高砂席で、俺の隣りで幸せそうに微笑む愛しい番の頬にそっと唇を寄せた。
ああ、とても幸せだ。
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