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光を一人家に残し、陽多は五十田の運転で撮影現場に向かった。昨日の悪天候から一転、今日は晴天に恵まれ、撮影の遅れを取り戻そうとキャスト・スタッフ一丸となって撮影は敢行された。
出番が来るまでにはずいぶんと待たされる時間もあって、その間に陽多の個人用スマートフォンは一件のメッセージを受信した。光からだった。
〈ティッシュなくなりそう。悪いけど帰りに買ってきて〉
光には珍しいヘルプ要請だった。納戸のストックも切れているということか。昨日から光は散々鼻をかんでいたから、そのせいだろう。
一方で、安心もできた。こんなメッセージが届くということは、ベッドを離れ、納戸までティッシュを取りに行く元気を光は取り戻したということだ。
「まったく」
よかった、と胸をなで下ろしながら、陽多は液晶の上で指をすべらせ、光宛ての返事を打ち込んだ。
「世話の焼けるお兄ちゃんだ」
優しくて頼りになると思っていたら、突然熱を出して倒れたりする。好きだとまっすぐに伝えてみたり、照れてみたり、怒ってみたり。コロコロと変わる光の表情は、どれをとっても愛おしい。
一瞬でも離れるのが惜しい。目を離してしまうのが惜しい。どんな顔をする光も、絶対に見逃したくない。
だからこれからも、光と一緒に暮らすのだ。世話が焼けても、喧嘩をしても、胸の鼓動が止むその時まで、光と同じ道を歩む。
光は陽多にとっての太陽だった。あたたかくて、優しさは時にまぶしくて、ずっと一人ぼっちだった陽多を明るい光で照らしてくれる。見上げればいつでもそばにいてくれる、なににも代えがたい大切な存在。
心から、光のことを愛していた。光の愛情を受けられることが誇りだった。
早く帰って、回復した光の胸に飛び込みたい。光がいてくれるから、しんどい時もがんばれる。がんばろうと思わせてもらえる。
家に帰れば、幸せな時間が待っている。それがなによりの力になった。
打ち込んだメッセージを読み直す。
どうかこの想いが、まっすぐ光くんに届きますように。
願いを込めて、陽多は送信ボタンを押した。
〈了解。買って帰るね。光くん、大好きだよ〉
【蜜月ラプソディー/了】
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